良質のラブ・サスペンスに、現代インド社会の問題点が漏れなくトッピングされた快作。社会的背景については下のブログ記事が詳しい。
http://movie-sakura.cocolog-nifty.com/blog/2009/04/post-debf.html
この記事を含め、この映画についてはすでに優れた批評がいくつも出ているだろうから、あまり誰も指摘していないだろう点を一つ。僕はこの映画を観て、昨年翻訳が出版された現代中国を代表する人気作家・余華の小説『兄弟』を思い出した。
この作品は、行き過ぎた政治主義と拝金主義の波が押し寄せる現代中国社会を、その波に飲み込まれる人々を愛情をこめて描きつつ、痛烈に批判してベストセラーとなった。拝金主義を批判しているといっても、資本家=悪、労働者=正義という単純な図式に寄りかかった『蟹工船』などとは異なり、あくまでも金儲けの面白さ・素晴らしさを活き活きと描きながら、そのすばらしい金儲けによって最終的に人々の「魂」が奪い取られてしまう、という形でその「恐ろしさ」を描いている点にこの作品の最大の特徴がある。
さて、この二つの物語はいろいろな点で共通点を持つ。急速な経済発展と価値観の変化を経験しつつある大国を舞台に、貧しさからたくましく這い上がる兄弟を主人公にしていること、兄弟の一人は金に執着しない聖人君子のようであり、もう一人は金と女に目がない俗物であること、兄弟にとっての「永遠の女性」が登場すること、物語の背景として様々な社会問題が描かれること、トイレの描写が重要な役割を果たすこと・・
しかしその結論において、二つの物語は全くの逆の展開を見せる。愛した女性との生活だけに至上の価値を見出す実直な主人公は、この映画では最後に全てを得るが、『兄弟』では逆に全てを失ってしまう。この結末の差は、映画(あるいはエンターテイメント)と文学の差なのか、あるいは中国とインドの社会の差なのか、それはよくわからないけど。

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