梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

ハイチとIMF

 W.イースタリー『傲慢な援助(The White Man's Burden)』170〜172ページより。

 次のトリビア的質問に答えてほしい。過去50年間でIMFから最も多くのスタンドバイ融資*1を受けたのはどの国か?答はハイチであり、22本の融資を受けた。しかもハイチの国というより、デュバリエ家(パパ・ドックとベビー・ドック)であった。この二人の統治下で、ハイチは1957〜86年の間、22本中20本のスタンドバイ融資を受けたのである。
 政治が悪かったが、デュバリエ家が経済もさらに悪化させた。ハイチ国民の平均所得は、デュバリエ政権誕生時よりも末期の方が低かった。パパ・ドックが政権を握った時、全子どもの半数が小学校に通えなかった。ベビー・ドックが政権を去った時も、半数の子どもがやはり学校に通っていなかった。

 独立以来おおよそ200回のクーデター、革命、暴動、内戦を経て、ハイチは今でも世界で最も非民主的で、腐敗が多く、暴力が多い不安定な政府である。IMFは歴史をチェックすることはなかった。200年もの間機能してこなかった国家をIMFがどうやって助けることができるだろう?

 国民の大部分が非識字であり無力であるのがハイチの未発展の原因だと考えられたのはデュバリエ家やIMFが登場する前からであり、今日でも同様である。IMFはハイチに融資を次々と実施したが、未発展の要因はもちろんのこと、マクロ経済を不安定にする根深い政治的要因にメスを入れることはしてこなかった。

 なんやかんや言って僕がイースタリーという人をサックスよりも信用するのは、こういった「本当のこと」をいつも歯に衣着せぬ言い回しではっきりと指摘できるところにある。

傲慢な援助

傲慢な援助

※追記: 以下の記事もぜひお読みください。
ハイチについて率直に語ろう ニューヨーク・タイムズ紙コラム ニコラス・D.クリストフ

*1:スタンドバイ取極(SBA)は短期的な国際収支問題に対処するよう考案されており、最も広く利用されているIMFのファシリティーです。SBAの適用期間は平均12-18カ月です。返済期間は延長の承認がない限り、通常2年3カ月-4年が期待されます。利用金額が多額の場合、サーチャージが適用されます。http://www.imf.org/external/np/exr/facts/jpn/howlendj.htmより。