梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

お仕事のお知らせ


 本日広東省と香港の滞在から戻ってきました。
 中国本土のホテルでネットにつないだら、朝日出版社のブログが丸ごとブロックされていて、ちょっとショック。どう考えても僕の連載が原因としか思えないので、*1なんか責任を感じてしまいます・・

 さて遅くなりましたが今週月曜発売の、『週刊東洋経済』9月14日号のコラム「中国動態」に、中国企業の「旺盛な参入」がもたらす活力について、以前ここでも紹介した渡邊真理子さんの研究などを援用しながら考察する文章を書きました。

 そこで一つのネタ元にしたのが以下のレポート(中文)。中国企業の「生存時間(設立されてから撤退するまでの年数」を調査したユニークなものです。
 http://www.saic.gov.cn/zwgk/tjzl/zxtjzl/xxzx/201307/P020130730564994714471.pdf


 この報告書を初めて知ったのは、これを中国史の孫引きのような形で紹介した東京新聞の記事でした。リンクはもう切れてしまいましたが、この記事、「中国企業 平均5年未満で倒産」という見出しで、本文中でも「日本や欧米企業の平均寿命は約四十年」なのに・・という対比で、「中国の経営者は短期的利益ばかりを追求している」といういかにもありそうなステレオタイプをなぞるような内容になっていました。

 でも、この記事の書き方は明らかにおかしいんですよね。上記の報告書をちゃんと読めば、アメリカの企業について「フォーチューン五百企業の「平均寿命」は40〜50年だが、中小企業だと7年に満たない」とちゃんと書いている。また、「中国企業は平均5年未満で倒産」という見出しについても、報告書のどこを読んでもそんな記述はありません。
 
 ・・というわけで件の東京新聞の記事は、インターネットで簡単に入手できるソースをきちんと当たらずに、たまたま見かけた二次情報をどうせ中国の(民間)企業家は長期的な経営のことなど考えずに金儲けにならないと思えばころころ商売を替えるに違いない」という自分(と読者)のステレオタイプに合わせて適当に書いたものだとしか思えませんでした。

 まあ、今回の東洋経済のコラムはこの東京新聞の記事にムカついたからこそ書けたようなものなんで、その意味では書いた記者に感謝しなけりゃいけないかも知れません。
 でも、たまたま専門家以外誰も注目しないようなマニアックな経済関係のネタだったからよかったようなものの、このように両国関係がギクシャクしているときに、政治・外交関係の微妙な問題で同じような「読者のステレオタイプに合わせた」記事がタレ流されたらどういうこになるだろうか?ということを考えると、少々暗澹たる気分にならざるを得ませんでした。

まあ、僕自身最初記事を読んだとき「なるほど、民国期からあまり変わってないな」なんて思ったりしたので、自戒を込めて言う訳なんですが。これに限らず、自分が実際に見聞きしたことや一次資料に基づかないでものを書いたり言ったりすることがいかに危ないか、ということを改めて肝に銘じた、という次第です。
 ・・というわけで、今度はできれば近いうちに、今回の現地調査で僕が実際に目にしてきた「中国企業の不思議な活力」についてでもちょっと書いてみたいと思います。

*1:コメント欄参照のこと。