昨年7月5日にウルムチで起きた騒乱から一年が過ぎた。いくつかのメディアが一周年ということで報道を行ったようだが、日本語のものは英語メディアに比べ圧倒的に量も少なく、特筆すべきものもなかった。それと平行して新疆への大規模な「対口援助」(中国の地方政府間でパートナーシップを定めて内陸部などの援助を行うこと)の決定、カシュガルの経済特区化など重要な動きが起きていて、それなりに関心を持って記事をクリップしてはいるのだが、うまく考えがまとまらないでいる。
しかし、以下の件はその重要さに関わらず日本の関心があまりに低いのと、国際的な関心が少しでも高まることが事態を好転させる可能性があるという理由で、あえて取り上げることにしたい。
昨年『世界』がとりあげた(といっても彼自身の文章を載せたわけではないが)こともあって、日本でもある程度知名度が高まったイリハム・トフティ氏と並び、事件後漢語で盛んに発言をしていたが、その後昨年10月に逮捕・拘束されていたウイグル人ジャーナリスト、ハイラット・ニヤズ(海来提•尼亚孜)氏が国家安全危害罪で起訴され、その公判が始まったというニュースである。
以下、ロイターの記事より。
July 22 (Reuters) - China will next week try a Uighur journalist and website manager on charges of "endangering state security" after he spoke to foreign journalists about riots in western China, an overseas activist group said on Thursday.
Gheyret Niyaz, whose trial is to take place on July 28, was one of a number of Uighur journalists, webmasters and bloggers detained after ethnic unrest in energy-rich Xinjiang region in July 2009, the Uyghur American Association (UAA) said.
特に以下のような記述が、事件までの彼の中国社会におけるスタンス、あるいはウイグル人ジャーナリストが置かれた状況をよく表しているだろう。
Niyaz was also regarded as broadly supportive of Chinese government policy by overseas Uighurs, who were surprised by his detention, the UAA report said. But he criticised economic inequalities and parts of a campaign against "separatism".
Niyaz was an administrator for the website "Uighurbiz" and a journalist with the Xinjiang Economic Daily.
Uighurs say bloggers and website managers were a particular target during a wider crackdown. A string of detentions decimated the small but previously thriving Uighur online community.
VOAの中文版の記事は、「穏健派」であるハイラット氏が逮捕されたのは、事件後彼が『亜州週刊』誌のインタヴューに応じた際に、「事件の前日、すでにかなり不穏な情勢が生じており、警告を発したにも関わらず、当初現地政府は警告を無視し、なんら事態が拡大するような対応をとらなかった」という内容のコメントをしたことが原因ではないか、と記している。
据外界分析,海来提被捕的原因很可能是因为他去年7月21日在亚洲周刊的采访中透露,他在7.5事件前一天就向新疆一位主要领导提出预警,但未被采纳。海来提还说,“最关键的是,政府没有采取一些及时的措施,避免事态的恶化”。
しかし、当局が当初事態を静観していた、といった類のことについては、その後国営新華社の副総編集である夏林というジャーナリストが天津外語大の講演会で述べ、その後その講演記録がインターネットで公表さえされている。この講演録の内容は大きな話題となり、当局はネットからの削除に躍起になった(ただし、いくつか転載されたテキストが存在。英訳版もあり)、しかし、夏林氏が当局に拘束される様子は全くない。
このことからも、ハイラット氏の「国家安全危害罪」での起訴自体がはっきりとした理由のない(あるとすれば彼が「漢語で発言するウイグル人」であったからとしか考えられない)、きわめて不当なものであることは明らかである。
個人的には、彼が昨年9月、拘束前に「ウイグル・オンライン」に投稿した文章は当時の新疆において民族的な対立が悲劇的なほど高まりつつある様子を活写した、非常に重要なテキストであると思っている。そうは思いたくはないが、むしろこうしたハイラット氏の事態の深刻さを伝えようとする、すなわちジャーナリストとしての良心に従った言論活動自体が、「国家の安全に危害を加える」という名目で弾圧の対象となったのかもしれない。
いずれにせよ、この時期にこういった公判が行われることは、上述の新疆への大規模な援助の実施とセットになった「飴とムチ」の政策そのものではないか、と考えざるを得ない。ともかくも、裁判の推移をしっかりと見守りたいと思う。