北京で買ってきた映画『馬背上的法庭』のDVDを(PAL方式なので)パソコンで観た。
ストーリーの説明はこちらにある通りで、「馬上法廷」というよりまさに「巡回裁判所」というほうがぴったりくる。ただ車が通れないような山間の村なので、「国徴(中華人民共和国の紋章)」その他の荷物を馬に載せて運ぶしかないわけだ。
以前BSドキュメンタリでもこの「巡回裁判所」が取り上げられたようだが(未見)、これは雲南省だけでみられる制度なのだろうか。この映画でも、イ族とモソ人という二つの少数民族の村が「法廷劇(というかほとんど「大岡裁き」の世界だが)」の舞台となる。このうちモソ人についてはこの映画ではじめて知った。おばあさんがマニ車を回したりしていたので、最初はてっきりチベット族かと思ったのだが、ナシ族に近い人々なのだそうだ。
いかにも苦労人の農村幹部といった感じの主人公を演じる李保田がとにかく上手い。その李保田が常に伝統的な少数民族の慣習法を尊重して柔軟な裁きを行おうとするのに対し、彼を補佐する若いイ族の青年が「法治」の精神を理解しようとしない同胞たちに対し苛立ちをあらわにする、という設定が巧みで、地味な話だが最後まで飽きさせない。そんな両者の「法」に対する姿勢が逆転し、ほろ苦い印象を残すラストも余韻があってなかなかよい。ぜひ日本で劇場公開してほしい一作である。
北京で買ったもう一つの作品『トゥヤーの結婚』もそうだが、最近の中国映画には少数民族の描写を通じて高度経済成長を遂げる現代中国社会を見つめなおそうとする作品が本当に多い。10年前には『チベットの紅い谷』のような露骨なプロパガンダ映画が大ヒットしていたことを思えば、少数民族が中国社会にとっての「理解すべき他者」として描かれるようになってきたことは特筆に価する。ただし、ウイグル族などテュルク系の民族については、そのような描き方をした作品は僕の知る限りまだ存在しないのだが。