梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

『長江哀歌』

 今日から大阪でも公開された映画『長江哀歌』を見てきた。賈樟柯は人物描写がそれほどうまくない監督だと思うのだが、この映画ではその点が全く気にならないので、まあ「題材の勝利」ということなんでしょう。あとパンフレットがすごく充実しているので絶対買うべき。そのパンフでも紹介されているが、やはり三峡ダムで沈む町を扱ったドキュメンタリー映画『水没の前に』がどうしても観たくなった。後で知ったのだがこれは昨年バークレーでも上映会があって、それだけでなく監督の李一凡ほか中国の若手ドキュメンタリー作家を集めてのシンポジウムも開催されていたのだった!今思えば実に残念なことをした。今後関西で上映会の予定があれば誰かぜひ教えてください。それにしても『一瞬の夢』のころと比べると王宏偉は太ったなあ。

 さて、作品のラスト近くに主人公の韓三明が民工仲間に山西省のヤミの炭鉱では一日200元稼げることを話して彼らが一瞬色めきたつが、とても危険な仕事だということがわかってシュンとなるという印象的なシーンがあるが、もしかして次作は炭鉱をテーマに撮るつもりか?などとチラッと思ってしまった。そういえば、この作品でチーフ助監督をしている新進の映画監督・韓傑のデビュー作『ワイルドサイドを歩け』(これも観たいのだが未見)も炭鉱町が舞台になっているらしい。このほか『水没の前に』と同時期に公開された『鉄西区』(これも未見)という、閉鎖される国有企業の労働者を題材にした長編ドキュメンタリー作品も、やはり高い評価を得ている。

 もちろん以前から中国映画の中で「貧困」「生活苦」は繰り返し描かれてきた。しかし、その対象となっていたのは主に「近代化の遅れ」の象徴たる農村・農民であった。しかし上であげたような現在の若手監督たちのモチーフは、あきらかに民工とか炭鉱夫とかリストラされた労働者といった「近代化の犠牲になっている人々」の方に移ってきている。このことは、張芸謀や陳凱歌など第五世代の監督がいまやすっかり「社会性」を失ってしまったことや、また先日取り上げたネットでNHKの『激流中国』が評判になるなどの動きともきっと大きく関係しているだろう。この辺の話は、またじっくり考えてみたい。