梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

がんばれ(いろいろな意味で)

  昨日のエントリは結構反響が大きかったようなので若干のフォローを。

 まず、中国ネチズンの間での『激流中国』の高い評価についてだが、番組の内容にインパクトがあったということに加えて、もう一つ忘れてはならないのは、こういった市民(ネチズン)の中に「格差問題」あるいは「報道の自由」といったテーマに関する現状・政権批判的な機運がかなりの程度醸成されているということだろう。

 中国の活字メディアには、このような市民のニーズに応えようとするものが少なからずあり、実際に広く支持を集めている。『激流』でも紹介された『南風窓』やそのライバルの「南方報業グループ」の発行物は炭鉱労働者や地方の農民の悲惨な状況に関する数々の「スクープ」をものしてきたし、北京の『財経』誌は株のインサイダー取引や国有企業のMBOなどに関するギリギリの疑惑追及を行ってきた。
 だがテレビはどうだろうか。一時期はCCTVの『焦点訪談』がやはり地方幹部の汚職などを盛んに取り上げて注目を浴びていたが、今はあまり元気がなくなっているのかもしれない。この辺の事情は今の僕にはほとんど分からないんだけど。

 ただ、いずれにせよ中国国内のこういった報道には当然ながら制約も多い。例えば上記のような人気メディアによる「突撃取材」や「告発報道」にしても、そのメディアの本拠地では、地元政府から発行にストップがかかるのでまず行えない。また、「こんなに悪い地方幹部がいる」「悪質な経営者が労働者をひどい目に合わせている」といったわかりやすい「落としどころ」がある場合は報道も比較的自由だが、政権や体制批判につながるものについてはきわめて厳しい制約がつく。この辺の事情は、『激流』の「ある雑誌編集部60日の攻防」の回に余すところなく描かれていた通りだ。

 『激流』を支持したネチズンたちが、これら新興活字メディアの読者層とどの程度重なっており、あるいは中国におけるテレビ報道にどのような不満を感じていたたのか、ということが明らかになればとても面白いと思う。また、番組を見たのが反日デモのときに話題になった「憤青」とは全く別の層なのか、あるいはその中の一部は重なっているのか、番組を見たことによってどう考え方が変わったのか、などの点も知りたいところだ。この辺、誰かメディア研究の専門家がきちんとフォローしないだろうか。

 というわけで、NHKにぜひ望みたいのはこのような中国ネチズンの声を拾い上げる努力をしてもらいたい、ということだ。例えば、このような海外からの反響の大きかった番組については、現地語か、せめて英語のブログを立ち上げて視聴者からの反響に番組制作者が直接応えられるようにしてはどうだろうか。それだけで、たとえば『激流』に感動した中国ネチズンからのNHK、いや日本の報道機関に対する信頼は絶大のものになるはずである。そのような信頼関係が今後の日中関係にとっても大きな財産になることは間違いない。

 ただ、現実問題として今のNHKにそんな「冒険」を望むのは無理な話なのかもしれない。最近になってようやくNHKのサイト内に開設されたブログも増えてきたようだけど、全体としてまだまだという印象はぬぐえない。特に、NHKがいろいろな意味で「意識」しているらしいBBCと比べると、シリアスな社会問題についてや海外の視聴者との間の「双方向性」の実態はお寒い限りといわざるをえない。これでは数々の優れたドキュメンタリーも泣く、というものだ。とりあえずNHKはまず日本のネチズンの声をきちんと拾い上げる努力から始めるべきだろう。