これまでも中国の経済発展の「影」の部分に焦点を当てた刺激的な報道を行ってきたNYTのハワード・フレンチ記者が、先日世界中で報道され衝撃を与えた山西省の「奴隷労働」レンガ工場に関して続報記事を書いている。
'Ideals and reality conflict on Chinese child labor'(フレンチ自身のブログで公開された分はこちら。また、彼がこの件で書いた最初の記事はこちら)。
もちろん、日本でも報道されたように胡錦濤を初めとする政府指導部はこの事件について徹底した救出と捜査を指示しているのだが、同時に、事件への怒りが(中央)政府や党に対する批判へと向けられることがないよう、政府が報道機関に圧力をかけたという次のような指摘もみられる。
After the torrid initial burst of news reports, the government, through the Central Office of External Communication of the Communist Party, instructed the news media to stop reporting "harmful information that uses this event to attack the party and the government," China Digital Times reported.
また記事の後半では、四川省の中学生数百名が「インターンシップ」のような名目で広東省東莞市の連結器メーカーの工場に連れて来られ、わずかな賃金で毎日14時間ほどの過酷な労働を強いられたケースが紹介されている。こちらは日本ではネットで見た限りまだ報道されていないようだが、中国国内では『北京晩報』など多数のメディアがこの事件を報じている。フレンチ記者は早速被害児童の保護者や工場関係者などの関係者からインタヴューをとっており、説得力のある報道を行っている。
記事タイトルの'Ideals and reality conflict'とは、現在の中国では「和階社会」のキャッチフレーズのもと子供の権利保護を目的とした法律の整備を行おうという「理想」主義的な動きがある一方で、「現実」には今回報道されたような「組織的」児童虐待が決して少なくないという「矛盾」を指摘したものである。特に、今回の東莞市(もともと劣悪な労働条件の「血汗工廠」が多く悪名高いところだが)のケースのように、沿海部の都市でもこのようなひどい児童虐待が行われていることが明らかになったことの意味は大きいかもしれない。
ざっとネットを見回しただけでもこの件についてはすでに識者の発言も多く、中国の世論にも間違いなく大きな衝撃を与えていることが推測される。これをきっかけに、急速な経済成長とグローバリゼーションに対して警戒感を抱く、いわゆる「新左派的」な論調が中国国内でまた強まってくるかもしれない。