梶ピエールのブログ

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Equity And Development

 今日、経済学部主催のセミナーで世銀エコノミストのFrancois Bourguignon氏の話を聴く機会があった。
 Bourguignon氏は、昨年出た世銀の年度報告書、World Development Report 2006:Equity And Development ISBN:0821362496まとめたメンバーの一人であり、これまでにも途上国の所得格差や貧困に関する優れた実証研究を多数発表している。今回も、新しいWorld Development Reportのエッセンスのような話が中心だった。

 さて、そのサブタイトルとなっているEquity And Developmentだが、この'Equity'という用語は、いわゆる「機会の平等」をあらわすものとして'equality'とは区別して用いられている。一般に、「平等」と「経済発展」という二つの概念は少なくとも経済発展の初期段階ではトレードオフの関係にある(クズネッツの逆U字カーブ)、というイメージが強い。しかし、Bourguignon氏によれ「平等」を単に所得の平等(equality)という意味ではなく、豊かになるための「機会の平等(equity)」としてとらえた場合には、この二つの概念はむしろ相互補完的なものになるという。このような「平等」と「発展」の補完性を強調する具体的なロジックとしては、次のような点が指摘されている。

・市場の不完全性により、貧困層の信用・保険サービスに対する利用が著しく制約を受ける可能性がある。
・大きすぎる(機会の)不平等は、格差を是正するための政府による経済への介入を招き、市場の効率性を損ねて成長率を低下させる恐れがある。
・大きな不平等をもたらすような法・政治体制・慣習などの「制度」は、往々にして経済発展にとってもマイナスの影響を与える。

 このあたりの議論や問題意識は、スティグリッツのそれとかなり似ているといえそうだ。というか以前取り上げたスティグリッツらの新著がそもそも世銀の報告書といってもおかしくないような内容のものだったことも考えれば、世銀内での彼の理論的な影響力はやはりかなり大きいのかもしれない。

 さて、今回Bourguignon氏の講演に注目したのは、ここ数年、こういった経済開発あるいはグローバリゼーションと不平等・貧困との関連を論じた書物が、かなりたくさん出版されていることに気がついたからである。というわけで、次はそれらをまとめて簡単に(というかタイトルだけでも)紹介してみたい。