梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

金融政策スタンスの変化

 その後、中国の銀行間金利がますます上がり続けている。



 これは明らかに、中央政府の政策スタンスの変化によるものである。ただ、それは今のところあくまで象徴的なものにとどまるだろう。具体的にどのような意味を持つかについては津上俊哉さんのブログ記事にくわしい。

http://www.tsugami-workshop.jp/blog/index.php?year=2005&month=6&categ=より。

第一はこれまでの 「適度に緩やかな金融政策」 は総体として維持する (利上げのような明白な 「引き締め」舵は切らない)、第二は売りオペなど公開市場操作により過度の流動性を回収する、第三は違法融資はもとより、資産投機に向かうカネの流れを抑制するほか、リスクコントロール面から見て問題のある取引も抑制するなど個別の手当をしていくことだ。

  第二、第三の措置は先週までの中央の政策点検を待つことなく既に実行されている。今月8日には人民銀行が7ヶ月ぶりに期間1年というかなり長期の手形(「票据」) を発行して売りオペを行った。金額は500億元だったがマーケットに 「流動性回収」という当局意向を知らしめる上で象徴的な効果があった。日常行われている短期の公開市場操作でも上半期は資金放出・金利低め誘導基調だったのが、7月からは市場金利を気持ち高め誘導する意図を感じさせる操作に変わったと言われている。

  第三の措置は銀監会中心に最近次々と打ち出されている。信託のような金融商品で集めた金を株のセカンダリ市場で運用することが禁じられた。住宅ローンの運用も投機的購買を抑制すべく厳格化された。銀行支店が成績を挙げるために期末に行う 「突撃貸出」を抑止するための貸出チェックの措置も講じられた。さらに、インフラ投資を行う地方政府系国有企業が発行する企業債を購入して信託類似の金融商品に組む商法も厳格チェックされることになった。この商法は4兆元対策登場以降、カネのない地方政府向けの資金調達手段として金融界に急速に拡がった商法だが、起債した国有企業は資金を 「資本金」 にしてインフラ投資を行う。何のことはない、懐妊期間の長いインフラに超 「ハイレバ」で投資しているのと同じ、償還の担保は将来の土地売却益・・・4兆元対策のかけ声の下とはいえ、地方政府にこんな投資を許していたら将来の不良債権増加は約束されたも同然・・・ということで銀鑑会が成敗に乗り出した。

 若干補足しておくと、もともと中国は金利が規制されている上に超過準備にも付利がされており、さらには取引コストが大きいため、各銀行は大量の準備預金を抱えているという事情がある。したがって日本などとは違い、インターバンク市場の金利には直接政策金利としての意味はない。公開市場操作中央銀行流動性を吸収しようとしても、各銀行は超過準備を取り崩すだけなので、それほど金利の上昇にはつながらないからだ。 
 したがって、これだけはっきりとした変化があるということは、1.市中銀行による超額準備の急速な取り崩し、2.中央銀行による流動性の回収、が同時に生じていることを意味している。1.は先日述べたような地方における資金需要が上昇していることと対応していよう。3ヶ月から1年物の中央銀行手形の発行利率も、ここ1,2ヶ月で同様の上昇の気配を見せている。

 こういったインターバンク市場の金利は確かに資金調達コストの上昇を意味するので、本来ならば銀行の貸出行動に何らかの影響をもたらすはずである。しかし、地方による資金需要が、政府主導の都市開発に伴う資産価格の上昇などに支えられたものであるなら、直接貸出金利を引き上げるのでもない限り、若干の資金調達コストの上昇は貸出にほとんど影響を及ぼさないだろう。津上氏も指摘するように、これらの地方政府主導の融資を直接規制するような動きが盛んに見られることが、そのことを良く示している。