梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

金融危機の中の中国不動産市場


 このところリアル学会の「お祭り」の実行委員にかかりきりになっていたせいで、昨今のリアル世界経済の動きはぜんぜんフォローできていないし、またネット上の祭りの動向にもついていけてないので、とりあえずリハビリのつもりでエントリしてみます。

 さていくつかのブログで紹介されているように、IMFが世界的な不動産市場の下落についてのレポートを発表している。
http://www.imf.org/external/pubs/ft/survey/so/2008/NUM100808A.htm
 その中に中国のデータはフォローされていないのだが、中国とアメリカの住宅価格を対比させた以下のブログ記事ならびに引用されているグラフがちょっと面白かったので紹介したい。
http://sun-bin.blogspot.com/2008/10/economist-has-interesting-review-on.html

 要は、北京や上海などの大都市を除けば、2000年以降中国の住宅価格の上昇率は、平均所得の上昇率を大きく下回っており、したがって現在の世界的金融危機の影響により住宅市場が多少下落したとしても、それは米国のケースに比べ、実体経済に対しはるかに小さな影響しか与えない。それどころか、むしろやや過熱気味だった資産市場のソフトランディングを行うのに都合がよいだろう、というものだ。
 一時期のでカップリング論はすっかり影を潜め、エコノミストの中には、むしろアメリカの方が早期に金融危機を脱し、アメリカの景気後退によって二次的な影響を受ける新興国の打撃のほうが大きくなるのではないか、という見解もあるようだが、今のところその当否についてはなんともいえないようだ。

 さて、このような「ソフトランディングできそうでよかったね」という見解がある一方で、当の中国では日本でも報道されたように、低迷する不動産市場に対して、地方政府によるてこ入れがおおっぴらに認められようとしている。
http://finance.sina.com.cn/focus/realestate_2008/index.shtml

 上記の新浪網の報道によれば、すでに全国18の都市で住宅取得の際の税制優遇措置や住宅ローンの頭金の引き下げなど、何らかの不動産市場への独自の救済策がとられているという。このような地方政府による救済策について、中国網民(ネチズン)の約80%は反対しているというが、これも当然といえば当然といえよう。地方政府による不動産市場への介入といえば、朝日新聞などでも報道された湖南省吉首市の不動産開発業者と地方政府がグルになって起こしたヤミ資金調達事件のようないかにも胡散臭い事例のことがどうしてもイメージされるからだ。

 ただ、この吉首市の事件は、単なる地方役人のモラルの低さから起こった問題などではなく、現在にいたる世界経済の情勢の中で起こるべくして起こった現象だということは指摘しておく必要があるだろう。現在の中国のように、成長率が金利(=投資収益率)を大きく上回っているような状況では、政府が投資収益率を上回るような債券を発行することによって民間から資金を集め、破綻することなく資源配分の効率性を向上させることが理論的には可能だからだ(詳しくは竹森俊平『資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』参照)。

 現在の中国では地方債の発行は認められておらず、かといって銀行からの借り入れは強く制限されている。このような状況の下で吉首市のように不動産業者を通じて債券を発行させ、集めた資金で地域の開発資金を捻出するというのは、資源の効率的配分という観点からは実はかなり利にかなったやり方である。ただ吉首のような田舎の役人がこういうことに手を出すとつい「やりすぎ」てしまうため、すぐに破綻してしまったが、今回中央政府のお墨付きが得られるならば、今後似たような現象が各地でおきてくる可能性はあるだろう。そのような「ミニバブル」が中国各地で復活することは、確かに中国の内需を刺激し、世界的な不況を若干緩和する働きを持つだろう。ただ、忘れてはならないのはそのような「ミニバブル」が持続するには成長率が金利を上回る、「動学的非効率」な状態が今後も続く、ということが前提になっており、今後のアメリカへの輸出減少が成長率に与える影響によってはその前提自体が大きく崩れかねない。その意味ではいうまでもなく、情勢は予断を許さないだろう。