tomojiroさんに教えていただいくまで全く知らなかったのだが、中国の「いま」に鋭く切り込んだNHKスペシャルのシリーズ『激流中国』の内容に対する中国当局の「厳重注意」が記された「秘密文書」がネット上に漏れて公開され、話題になっているようだ。
http://www.danwei.org/internet/secrets_out_in_the_open.php(中文版は、こちら)
中でも問題とされたのがプロローグの「富人と農民工」 と第一回の「ある雑誌編集部60日の攻防」であり、いずれも「貧富の格差」「政府の報道規制」といった「負の面を強調しすぎており」「客観的ではなく」「視聴者に誤解を与える」としてNHKに報道姿勢の反省を促す内容となっている。
その背景には、どうもこの番組(批判を浴びた回)が中文字幕つきでYouTubeなどを通じてネット配信され、中国のネットユーザーの間で大きな話題になった、ということがあるようだ。中文版のGoogleで検索した結果はこんなところだが、ざっとこれらのウェブ記事に目を通したところ(リンク切れも多いが)、大変興味深いことには番組を絶賛するような内容のものがほとんどなのだ。
たとえばプロローグとして放送された「農民工と富豪」は、不動産投資で巨万の富を築いたディベロッパーの「華麗なる毎日」と、日当600円で建設現場ではたらく農民工の生活を対比させて描いたものだが、「衝撃を受けた」「これは中国の事実そのものだ」「ここに描かれた貧富の格差はあまりにひどい」「これって資本の原始的蓄積なのでは?」「涙なくしては観られなかった」などと、かなりの衝撃をもって受け止められたことが多くのブログや掲示板の書き込みからうかがえる。
こういった中国国内での反響を考えると、冒頭の中国当局のNHKへの抗議文(もしそれが本物であれば)の意図も明らかになってくる。確かに『激流中国』あるいは最近NHK-BSで放送されたいくつかの中国を題材としたドキュメンタリーでは、それまでの常識ではちょっと考えられないほどの踏み込んだ取材・描写までもが許可されるようになっている。ここには、明らかに北京オリンピックを控え海外メディアへの情報公開を積極的に行っていることをアピールしたいという政府当局の意図がみられる。しかし、それはあくまでも番組が外国のみで放送される場合の話だ。中国国内では容易に観られないはずの番組が、ネット配信によってこれだけ話題になるとは想定外だったに違いない。それに慌てふためいて火消しに向かったのが冒頭の通達だった、と考えても、そう的外れではないだろう。これと前後してネットでの検閲も始まったようで、この辺の経緯はウィキペディアの記述に詳しい。
こうしてみると、今NHKが真に向き合うべきなのは、矛先が自分たちに向かうことを恐れて圧力を加えてきた政府当局なのか、それとも『激流中国』を熱烈に支持し、「日本の報道番組は客観的ですばらしい」とまで言ってくれた中国の市民たちなのか、その答えは自ずから明らかだろう。大げさに言えばこの問題の帰結は今後の日中関係が「小泉は悪人だったのでダメだったが、(李嘉誠似の)福田さんはいい人なので関係は良好です」といった権力者の都合による「おためごかし」のレベルにとまるのか、市民レベルのより深い交流が可能になるかの分かれ目になるような気がしてならない。というわけで、今後の『激流中国』の内容に一層期待するとともに、番組に対する中国政府およびNHK双方の今後の対応にも注目したい。