梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

北京の一元コイン

 北京と上海をそれぞれ何度か訪れたことのあるものなら誰しも気付くことであるが、この両メガポリスではコインの流通の度合いが全く異なる。北京では一元(約16円)以下の小額でもコインを使わず、ぼろぼろに磨り減った紙幣を使うことが一般的だ。特に一元硬貨は上海周辺では普通に流通しているのに、北京では店でもレストランでもつり銭などでもらうことはめったにない。これは10年前に留学していた頃からそうで、僕なんかも上海に出かけたときにたまった一元コインを北京に持って返って大事にとっておいたものだ。

 田舎ではいまだに一元コイン自体を見たことがない人間が多くて出しても受け取ってもらえないことがある、というのは10年ほど前にはフォークロアとしてよく耳にしたが、もちろん現在の北京ではそのようなことはなく、店でコインをはらえばきちんと受領してもらえる。しかし、それにしてはこれだけ流通量に差があるのはやはり不可思議である。

 理由として考えられるものを強いてあげるなら、両都市における自販機の普及度の違いだろうか。北京の街中にある自販機の数は、これまた国際的大都市を目指すにしては極端に少ない。例えば地下鉄の駅一つをとっても上海ではほぼ全面的に自動改札になっているが、北京では比較的最近建設された路線以外は自動改札を通らない紙の切符を窓口で買うのが一般的で、定期券のICカードを通すための機械が改札に設置されるようになっても、その隣にはしっかりとおばさんが座って切符のもぎり(文字通り切符をちぎる)をする、という状況が続いている。

 こういう状況を見て思いつくのは、もしかしたら北京では一種の雇用政策として自販機の設置を政府が規制しているのかもしれない、ということだ。あるいは、コインの流通をコントロールすることで間接的に自販機が普及しないようにしているのかも、という可能性もちょっと考えたが、紙幣が使用できる自販機を設置すればいいだけの話だし、自販機さえ普及すれば他地域からコインが流れ込んでくるはずなので、こちらの説明はあまり説得力がなさそうだ。

 さて、来年の北京オリンピックの開催をにらみ、増加する旅行客の利便性を考えて街中の自販機が増え、それにあわせて北京でも次第にコインが流通していく、ということはありうるのだろうか。今のところその兆しはあまりなさそうなのだが・・