さて、毎回力作ぞろいで歴史に残る名シリーズの予感もするNHKスペシャル『激流中国』だが、中国北部の水不足を扱った今回も見ごたえのある内容だった(なんかこればっかり言っているような気もするが)。ただ「南水北調」に対する検討など水不足問題の全体像に関する説明はそれほど詳しくなかったので、先日紹介した富坂聡氏のルポルタージュを合わせて読むのをお勧めする。
深刻な水不足に悩まされているにもかかわらず、地元にあるダムの水を「北京に回すため」ということで使用を禁じられている近郊の農村での取材の様子も実に興味深かったが、個人的にツボにはまったのは「降雨弾」を打ち上げて人工雨を降らせるシーンだった。
近年中国のあちこちで降雨弾を打ちまくっていることは「降雨弾」でググって見ればすぐに分かることだが、実際に打っている様子を見たのはこれが初めてだった。ホンモノのロケット弾みたいで結構カッコイイではないの。これならいつかジャミラが攻めてきても大丈夫かもしれない。
僕が中国での降雨弾の使用についてはじめて知ったのは1999年のことだった。この年まだ院生だった僕は何を思ったか建国50周年の街の様子を見物しようとして(結局長安街には近づけずテレビでパレードの様子を見た)国慶節の前の日に飛行機で北京に着いたのだが、空港バスに乗っている途中からみるみる暗雲が立ち込めてきて、バス降りた時にはまさにバケツをひっくり返したような雷雨になっており、びしょ濡れになりながら宿泊先の中国人民大学の構内まで歩いていったことを覚えている。後で聞いたところ、どうもそれはパレードの最中に雨が降らないよう前日のうちに空気中の「水気を抜く」ために降雨弾を打っておいたということらしく、確かに翌日の国慶節は雲ひとつない快晴だった。当時の指導者は派手な演出好きの江沢民だったのでさもありなんという感じだが、あれからこういった「政治目的」の降雨弾使用は行われていないのだろうか。
さて、上述の富坂氏のリポートによれば、昨年の四川省を襲った旱魃では政府が約千発の降雨弾を打ち上げたものの、目立った効果はなかったという。また、専門家の中には近年の三峡ダムの建設が水蒸気の流れを変えたことが旱魃の原因になっているという説を唱える者もいるという。いずれにせよ、現在の中国にとって「水不足」がジャミラよりも手ごわい敵であることは間違いなさそうだ。