先日、日本の家計貯蓄率が過去最低の3.1%となったという報道があった。「日本人は貯蓄好き」というイメージをすっかり刷り込まれて育ってきたので、既に先進国ではアメリカについで家計貯蓄率が低い国になっている、という事実はなかなか感慨深い。
http://news.www.infoseek.co.jp/business/story/13reutersJAPAN242547/
一方、最近バーナンキFRB議長たちから盛んに「貯蓄率を下げなさい」といわれている中国の家計貯蓄の事情はどうなっているだろうか。IMFのエコノミストEswar Prasadが昨年バークレーで行った報告によれば、家計サンプル調査に基づく中国都市家計の貯蓄率の数字は1990年代後半以降は20%弱で推移しており、ほぼ日本の70年代の水準に近い状況だと思われる。
http://www.econ.berkeley.edu/users/webfac/qian/e261_s06/prasad.pdf.ppt#15
しかし、ここ10年ほどの間中国では名目・実質金利がかなりの低水準で推移したことを考えると、家計がこれだけの高い貯蓄率を記録し続けることは'Pazzling'である。
というわけでPrasadは、恒常所得仮説や、社会の年齢構成の変化、消費者金融の普及などの視点からこの'Pazzle'への答えを探そうとしている。例えば世代と貯蓄率との関係だが、下記のグラフによれば、年齢別にみた貯蓄率は40歳台後半から50歳台にかけてピークを迎えていることがわかる。
http://www.econ.berkeley.edu/users/webfac/qian/e261_s06/prasad.pdf.ppt#22
通常は高齢者になるほど現役世代の貯蓄を取り崩して生活するようになるため貯蓄率は下落するはずである(これが昨今の日本の貯蓄率が低下した主な原因でもある)。にもかかわらず中国の現実がこのようになっているのは、現在40歳台以上の人々がこれまで国有企業改革によるリストラ(いわゆる「下崗」)の不安に最も深刻にさらされてきたからである。そして、このような急激な社会変革に対する不安とリスクヘッジこそが、都市家計の高い貯蓄率の要因として最も重要なものであり、その効果はもうしばらく持続すると考えられる。そして、例えば消費者ローンの普及などは貯蓄率の低下にはほとんど影響を与えないだろう、とPrasadは結論付けている。
ちなみに、農民はこの調査・分析の対象に含まれていない。これまで国有企業の基で比較的高いレベルの社会福祉を享受して来られた都市住民とは異なり、もともと公的な社会保障の枠組みから外れてた農民の貯蓄行動を分析するには、また異なったアプローチが必要とされるだろう。