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園田茂人『不平等国家 中国』

不平等国家 中国―自己否定した社会主義のゆくえ (中公新書)

不平等国家 中国―自己否定した社会主義のゆくえ (中公新書)


 政策決定にも影響力を持つ中国の社会学者たちと広い親交を持つ筆者が、豊富な一次データを駆使して現代中国社会の階層分化を分析。とりあえず重要と思われる点をメモ。

・中国社会の「不平等」の象徴としてとりあげられることが多い都市の出稼ぎ労働者だが、実際はそれまでの農村での生活に比べれば確実に暮らしがよくなっているので、それほど不満は感じていない。したがって彼(女)らの生活への不満から何らかのカタストロフィーが生じる可能性は非常に低い。
・しかし、出稼ぎ労働者も都市生活が長くなればなるほど、具体的な不満を募らせる傾向にある。
・都市住民の中では、低所得者層の方が外来人口の流入に対して強い抵抗感を持つ。
・収入格差をもたらす最大の要因の一つが学歴格差だが、人々はそれを容認する傾向が強い。
・都市中間層は確実に拡大しているが、その多くは民主化の積極的な担い手というよりは現状維持を求める保守的な性格を持つ。例えば、彼(女)の多くは政府や公式メディアに対して不満を感じているが、表立っては反対を表明せず、現実にはコネなどの個人的な手段に頼って解決を図ることが多い。
・地方政府に対する評価は低いが、中央政府の能力に対する信頼性は概して高い。
・この10年の間で、公務員など国有部門の従業員所得は、非国有部門に比べて大きく増加した。すなわち、90年代後半以降の改革の最大の受益者は共産党員であり、国家幹部であったと考えられる。
・しかし、一方で行き過ぎた格差の拡大に警戒感を抱いているのは、むしろそういった「勝ち組」層である。
・今後の中国社会の統治のあり方は、エリート主義的テクノクラシー儒教のような伝統的価値観をベースにした、「過去への進化」あるいは「士大夫階級の復活」ともいうべき方向性で特徴付けられるだろう。