http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20090801AT2C2401J01082009.html
日銀は中国政府の事実上の管理下にある外貨資産が、公表されている外貨準備高よりも約3000億ドル(約28兆円)多いとする試算をまとめた。中国の発表によると、外貨準備高は6月末で2兆1316億ドル。試算通りなら、中国は外貨資産を1割以上多く保有していることになる。国際金融市場での存在感が一段と高まりそうだ。
外貨準備に含まれていないのは中国人民銀行(中央銀行)が銀行から預かった外貨建ての準備預金と、政府系ファンドなどへの出資分だ。(20:10)
問題となっている日銀のレポートはたぶん↓こちら。
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/rev09j08.htm
このレポートはタイトルからもわかるように、外貨準備額自体を問題にするというよりも、その推計に誤差が存在することにより海外のホットマネーの流入額が過少に評価されていたことを問題とするものである。
さて国際収支の恒等式より、誤差脱漏分を除くと
外貨準備増加額=経常収支黒字+資本収支黒字
となるため、資本収支黒字から直接投資を除いた部分をホットマネーの流入分だとすると、その規模は、下記のような式によって推計されるはずである。
しかし、何らかの理由で外貨準備額の増加分が実際より大幅に過少に評価されているとすると、上記のような式で推計されるホットマネーの額もかなり過少に評価されることになる。この点を考慮して、近年の中国の資本市場に実際はどの程度のホットマネーの流入があったのかを推計しようとしたのが上記のレポートである。
さて、レポートによれば、
1.市中銀行の外貨による準備預金積み立て
2.国家投資ファンドへ(SWF)への外貨準備の振り替え
3.中央銀行と市中銀行との為替スワップ
の三つのルートを通じた実質的な外貨準備の増加が生じているにもかかわらず、それが公式統計には反映されておらず、過少評価が生じているという。同様な視点は、中国社会科学院世界経済政治研究所の張明氏などが以前より指摘しており*1、その意味ではオリジナルな見解というわけではない。張明氏らによれば、このほかに、貿易黒字や直接投資に隠れて流入しているホットマネーもあり*2、それらも無視できない額になっているという。
これらの推計によると、海外からの中国のホットマネーの流入がピークを迎えていたのが2007年下半期から2008年上半期にかけてであり、2007年下半期には2008年上半期には1391億ドルのホットマネーが流入したとされる(張=徐は2007年全体で5410億ドル!のホットマネーの流入があったとしている)。しかし、2008年下半期には逆に1848億ドルが流出したとされる。
このことはドル=人民元の現物レートの動きを見てもわからないが、現物レートと先物レート(NDR)のスプレッドに注目すればよくわかる(レポートの図参照)。2007年後半から2008年にかけては先物レートが大きく元高に振れ(現物レートとのスプレッドが拡大し)、市場に強固な元高期待が生じていたことがわかる。
このような現物レートと先物レートのスプレッドの拡大は、裁定取引の余地を生むため、それを狙ったホットマネー流入の原因となる。しかし中国の現状ではだれもがこのような裁定取引の甘い汁を吸えるわけではなく、実需証明が可能な貿易会社や輸出企業などに限られており、したがって裁定機会が比較的長期間持続したのだとしている。そして、2008年下半期のホットマネーの流出は、先物レートの動向がむしろ元安方向に触れ、裁定取引が解消されたことによるものだとレポートでは結論付けている。
しかし、2007年下半期から2008年上半期にかけてなぜかくも強固な元高期待が生じたのか、その理由は明らかにされていない。確かにこの時期アメリカはサブプライムローン破綻の処理のため金融緩和政策を取り始めた一方、中国はむしろ物価と資産価格の上昇を抑えるために引き締め政策を取っていた。しかし、現実の現物/先物レートのスプレッドは米中の金利差だけではとても説明できない大きさだったからだ。この点を解明することは、世界同時金融危機のメカニズムを理解するうえでも存外重要ではないだろうか。
中国政府がNDFレートの値を公表しなかったり、このように外貨準備の増加額をあいまいなままにしておこうとするのも、ホットマネーの動きがリアルタイムで明らかになることで、その動きが一層加速されることを恐れているからかもしれない。
関連エントリ
http://d.hatena.ne.jp/kaikaji/20090223/p2
http://d.hatena.ne.jp/kaikaji/20090103