あけましておめでとうございます。
昨年12月の共産党政治局会議、およびその後の中央経済工作会議で約二年ぶりに「適度に緩和的」な政策スタンスからの転換が打ち出され、そこから間髪を要れずに政策金利の引き上げが行われたことで、これから中国はインフレと高成長のバランスをどうとるのか、ということが改めて注目をあつめている。そこで、以下では新春らしく、簡単に今年の中国経済のマクロ的な展望を分析しておこう。
中国のマクロ政策を考える上でとても重要だと思われるのに、ほとんど言及されることがないのがCPIから生鮮食料・エネルギーの上昇分を取り除いたコアCPI(日本におけるいわゆる「コアコアCPI」)の動向である(上図の赤い折れ線。データはCEICより入手)。
これをみると、リーマンショック前、CPI(青い折れ線)のかなりの上昇が見られた状況の中でもコアCPIは1%を若干上回る水準でほとんど変動していないことがわかる。その後、1年余り明らかなデフレ状態を経験した後、コアCPIは再び1%を若干上回る水準で推移すると同時に、CPIとの間に再び乖離が生じている。このように両者に大きな乖離が生じると、どちらの指標の安定を目標にするかでその政策効果は全く異なってくるはずだが、通常金融政策を行う際に参照すべきなのは、供給側の要因によって変動しやすいエネルギー・生鮮食料品価格を取り除いたコアCPIのほうだ、とされている。
このコアCPIの指標は、マスコミなどでまず取り上げられることはないものの、政策当局者は当然このことを承知しているだろう。現在のようにCPIが5%を上回るような上昇になっても、また不動産価格の上昇が喧伝されるようになってもそれほど大幅な金利の上昇をすべきではないと考えられる根拠はここにある。
このような物価をめぐる状況に加え、年末にあわただしく行われた預金準備率・政策金利の引き上げも、また、それに合わせて元ードルレートの上昇容認傾向がみられることを考えると、現在政府によって取られている金融政策は「引き締め」というよりは「出口政策」の本格化と見るべきである。そのような政策スタンスを含め、現在の中国におけるマクロ経済は、2007年から2008年にかけての状況の再現である、と考えておけば大きな間違いはないだろう。
当時と若干違うのはインターバンク市場での金利がより高騰していることである。これは、当局が窓口規制によって貸し出しを抑制しても、銀行などの旺盛な資金需要は抑えられていないことを意味する。このまま貨幣供給量を絞り続けるならば、貨幣市場における需要超過の状況が続くことになり、これは強力なデフレ圧力となるだろう。そのことを承知で資金を絞り続けるのか、あるいは適当なところで再び貸し出しを緩めるのか(恐らくこちらの可能性が高いのではないかと思う)、ということが金融政策上の一つの焦点となるだろう。
もうひとつの不安材料は米国が金融緩和政策を続ける中で、為替の安定がネックとなって国内の金融の独自性が奪われてしまう(いわゆる開放小国化)ことである。たとえば、2006−2007年当時は切り上げのペースが中途半端であった(市場の上昇期待を下回るペースだった)ためにかえってホットマネーの流入を招いて物価が上昇してしまった(詳しくはこの記事を参照)。この当時は、年率にして現在とほぼ同じペース(3−4%)で切り上がっていたが、フォワードレートとスポットレートの差は一時期最大で8%にまで達していたからだ。
しかし、現在の先物レートとのスプレッドが1.5−2%程度で推移している(CEICのデータより)。これを市場の元高の予想変化率とみなせば、現在(2010年後半以降)の元高のペースはそれを上回るペースなので、一定のインフレ抑制効果があるといってよいのではないだろうか。つまり、少なくとも現状では、中国の金融政策に対する「ドルの足枷」は深刻な問題とはなっていないと考えられる。
このように見ていくと、全体として現在のところ中国の金融政策の運用は基本的に妥当なもので、マクロ経済は堅調に推移しつつある、と言ってもよいだろう。もちろんミクロレベルで見れば一部での物価上昇に対する庶民、特に若年層の不満や、農村における土地収用問題の頻発など、様々な問題があるのは確かである。しかし、マクロ面では目立った懸念材料はなく、しばらくはインフレの範囲を一定に抑えたまま、現在のような高成長が続くだろう、というのがさしあたっての僕の見方である。