梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

元安現象をめぐる雑感

日本経済新聞」12月4日付の記事より。

【北京=高橋哲史】中国の通貨、人民元の対ドル相場が急ピッチで下落している。中国当局は世界的な金融危機の影響で景気が下ぶれするのを防ぐため、元相場を切り下げ方向に誘導しているもようだ。元相場の下落は中国製品の輸出競争力を高め、経済成長を後押しする効果が期待できる。ただ、中国政府が2005年の制度改革から続けてきた元相場の切り上げ政策を転換すれば、米国などが反発するのは必至だ。

 4日朝の上海外為市場で、人民元の対ドル相場は取引開始直後に値幅制限の下限の1ドル=6.8845元まで下落した。元相場が取引時間中に値幅制限の下限まで下げるのは4日連続。

津上俊哉氏のブログより。

しかし、いま世界同時不況がもたらす不安感の中で、海外では誰しもイヤな予感が頭をよぎる。「不振・苦境が著しい輸出産業を支援し、景気に外需ドライブをかける狙いで、中国が 『元安』 政策を発動したのではないだろうな?」 ということだ。
  筆者はその可能性はないと思う。本件に関する中国国内の公式報道は、あるいは 「輸出が落ち込んでいるのは世界不況のせいであり、為替レートが原因ではない」、あるいは 「『元安』 政策は外国消費者に補助金を出すようなもので、愚かな考えだ」 という (我が敬愛する) 社会科学院余永定氏のコメントを紹介している。それに、10年前のアジア金融危機のおり、ときの朱鎔基総理が 「元は切り下げない」 とぶって、世界の喝采を博したことは未だ人の記憶に新しいはず、世界規模で危機に見舞われているいま、逆のことをやれば世界中から何と言われるかを想像できないはずはない。よって、中国が確信犯で 『元安』 政策を発動した可能性は低いと思う。

恐らく、こういうことではないか、つまり、これまで外部から恒常的に大量の資金が流入、その内貨転換で膨大な元買い需要が日常的に発生、レートの急上昇を防ぐために日常的にドル買い介入をしてきた中国で、上述3点の背景により、突如 「元売り/ドル買い」 需要が強まり、これまでのレートを維持するためには、従来とは逆向き、つまり 「ドル買い/元売り」 の市場介入を減らす、需給によってはさらに 「ドル売り/元買い」 の市場介入をする必要が生じているということだ。

私も津上氏の見解に賛成である。海外からの需要が落ち込み、景気の先行き不安感が明らかになったことにより通貨の割高感が広がっている、という点では現在の中国経済アジア通貨危機後の状況にますます似てきた、といってよい。当時は厳格なドルペッグ制を採用していたために、海外へのホットマネー流出はベースマネーの収縮をもたらし、経済をデフレの状況に追い込んだ。現在のようにわずかではあるとはいえ為替に変動の余地がある状況で、同じような資金の海外流出が見られるとき、変動幅いっぱいに元が切り下がるのを政策当局が放置するのは、国内経済がデフレに陥るのを防ぐためには当然の行動だといってよい。日経の高橋記者は、「元相場を切り下げ方向に誘導しているもようだ」という表現を、いったいどのような根拠があって使っているのだろうか。