梶ピエールのブログ

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中国の「インフレ懸念」と金融引き締め

 コメント欄で余計なことを書いたけども、bewaadさんの5月16日のエントリ及びそこで紹介されている読売新聞の記事における見解は基本的に妥当だと思う。『財経』のこの記事(中国語)などをみても、中国国内では確かにこのところ経済過熱を懸念する声が強くなってきているのは確かだ。読売の記事はおそらくこのような中国国内の論調を丁寧に読み込んでのものであり、確かに信頼に値する報道姿勢といえるだろう。

 このような「経済過熱」への懸念にどの程度の妥当性があるのかざっと検証するために、とりあえず2000年から今年の3月までのマネーサプライ(M2)とCPIの動きをグラフにしてみた。確かに今年第1四半期のCPI上昇率は低いのだが、マネーサプライの伸びが、昨年7月の元切り上げ以降比較的安定しているとはいえやや高めでの推移であり、2003年後半から2004年前半にかけてのマネーサプライの上昇がその後のCPIの上昇(約5%程度)をもたらした状況と似ているといえなくもない。この点からは今回の利上げ+通貨切り上げによる金融引き締めはやはり妥当な判断だったと言えるかもしれない。

 ただ、当時との大きな違いは銀行貸出の伸びが数字を見る限りそれほどでもないことだ。2003年当時は地方政府がディベロッパーと組んで行った乱開発への融資の増加がマネーサプライの増大と地価の上昇をもたらしたのだが(それに対処するための中央政府による「バブルつぶし」ともいうべき急激な総量規制がその後全国で土地なし農民問題が噴出する原因となったわけだが)、現在は政府の「窓口指導」の押さえがまだきいているのだろう。
 また、物価について最も懸念されるのは原油などの原材料価格の上昇だが、それも一貫して高騰を続ける原油を除けばピークは2004年の後半であり、その後は今年の第1四半期まで一貫して下落傾向にある。そしてその他の財の価格上昇はおおむね低く抑えられており、特に耐久消費財価格などは1998年ごろから一貫してデフレ傾向にある。不動産価格の上昇も、もちろん地域差はあるが総体としては今のところ大したことはない。

 以上のようなことを考えれば、今回の金融引き締めはその慎重さといい、外圧への対応というタイミングといい、結構絶妙のさじ加減だったといえるかもしれない。もちろん、bewaadさんのコメント欄で書いたように中途半端な引き締めは一層の元高期待をもたらすという側面もあり、それがはっきりするのはもう少したってからだろうけど。