梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

「胡さん」のアメリカ訪問と各紙の反応

 さて、せっかく「胡さん」がこちらにいらっしゃっているので、現地メディアの反応を探ろうと英字紙をあれこれ(といってもせいぜい三紙だが)買って読み比べてみている。かつて「江さん」がアメリカを訪問した時にはあちこちでいろいろパフォーマンスを見せてくれたので楽しかったのだが、その点「胡さん」は地味なのであまり面白くない…かと思ったら首脳会談前の段階ですでにはっきりと各紙のスタンスの違いが現れていて結構面白かった。

 まず保守系の経済紙ウォールストリート・ジャーナルだが、昨日と今日の紙面を見る限り、まず記事の扱い自体がかなり小さいことが目を引く。また、18日と19日に載った記事のタイトルがそれぞれ'U.S. Attempts to Coach China on New World Role', 'Peking Lame Duck'であることからわかるように、「所詮中国はアメリカにとって対等な相手などではない」という小バカにしたような態度が目に付く。
 特に後者は、「訒小平氏には世俗的なユーモアのセンスがあり、江沢民氏には気恥ずかしくなるような虚栄心があったが、胡氏にはそういうはっきりしたものがない」「胡の現在の地位はかなり危ういものだ」「今日の中国は強い指導者を必要としており、そういうタイプではない胡氏は容易に誰か他の人物にその座を取って代わられてしまうかもしれない」などと散々な書きようである。まあ、「江さん」が「(こっちが)恥ずかしくなるような虚栄心の持ち主」だというのには思わず笑ってしまったけど。

 では代表的なリベラル紙であるニューヨーク・タイムズはどうか。こちらは記事の扱いはWSJよりはるかに大きく、またあからさまに中国をバカにするような表現は見当たらない。しかし、中国(政府)に対する視線はやはり極めて厳しいものがある。たとえば18日の紙面では、社説と国際面で、2004年に国家機密を漏洩したとして当局に拘束・起訴されたが今年になって一旦起訴が取り下げられた、同紙の北京支局のスタッフ・趙岩氏について、中国司法当局が再捜査に乗り出したことに抗議し、早期釈放を訴える記事を載せている。

 趙岩氏については下記記事を参照のこと。
http://www.asahi.com/world/china/news/TKY200603180248.html
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060418-00000214-yom-int

 また19日付の経済関係の記事、'China's Oil Needs Are High on U.S. Agenda' は、中国の国内石油消費により原油価格が高騰しているだけではなく、原油獲得のため中国がイラン、スーダン、ミヤンマーなどの非民主国との接近を強めていることが国際政治上の摩擦をもたらしかねないことを警戒する内容となっている。
 もともと僕がNYTを購読しているのも中国関係の記事が圧倒的に多いからで、特に中国の人権や貧困問題に関する批判的記事については、現地取材の徹底さといい分析の深さといいボリュームといい、他紙の追随を許さないと思う。だからこそ趙岩氏の事件のようなことが起きたりするのだろう。日本の一部のネット社会ではNYTというとなんとなく「日本に厳しく中国に甘い」というイメージがあるようだが、それははっきり間違いである。ここで紹介した記事も、そのトーンからからはまるで産経新聞を読んでいるような印象を受ける。

 さて、アメリカの左右二紙がスタンスは違えど非常に政治的な姿勢が目立つのに対して、英国フィナンシャル・タイムズ紙はむしろ貿易不均衡や元の切り上げなど経済問題に関するデータや専門家の分析を踏まえた客観的な報道姿勢が特徴的だといっていいだろう。個々の記事は(ちょっと疲れたので)ここでは紹介しないが、米中間の経済問題について政治問題に惑わされることなく理解しようとするなら、フィナンシャル・タイムズを読むのが一番かもしれない。
 
 このほか、チベット亡命政府に関してはSun Binが、世界ウイグル人会議に関してはkokさんが伝えてくれているように、少数民族の人権問題を訴える動きが活発化していることも注目される。