梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

移民問題についてあれこれ

昨日は移民問題をめぐってアメリカ各地で大規模なデモが行われたのは報道の通りだが、バークレーのキャンパスでもメキシコ系の学生を中心に100人くらいのデモが行われた。ワシントンなどのデモでは、メキシコ・ナショナリズムあるいは反米主義のイメージを与えることを避けるため、アメリカ国旗を掲げながらデモ行進するという方針が採られたようだが、バークレーのデモではみんなメキシコなど中南米の国家の旗(メキシコしか判別できなかったorz)を掲げ、スペイン語でスローガンを叫びながらの行進だった。まあ確かにバークレーのような左派リベラルのスクツで星条旗掲げてのデモは似合わないかも。

 CNNでもこのところ連日で移民問題の現状をレポートする番組をやっていて、主にジョージア州の不法移民の実態が中心に報道されていたのだが、そこで地元のいかにもマッチョな感じの保守オヤジが出てきて、ヒスパニック系不法移民が多い場所をパトロールしては「英語はしゃべれるのか?」「グリーンカードは持っているかね?」などと(何の権限もないのに)尋問し、不法移民と見るとすぐさま移民局に通報したり、移民たちがデモをやっているところに向かって「君達はアメリカ国民じゃない!犯罪者なんだぞ!」と大声で叫んだり、ああ、これがアメリカ草の根保守というやつだな、すげー、などと感心したりしていたのだが、なんとこのおじさん昨日の番組ではCNNのスタジオに呼ばれて生放送で自説をぶっていたので驚いた。

 まあこういう人たちと比べると短期のゲスト・ワーカー・プログラムを含む超党派の移民受け入れ法案を提案しているジョン・マケインエドワード・ケネディがとても良心的な人たちに見えてくるのも仕方ないかもしれない。しかしクルーグマンの「ドバイへの道は善意で敷き詰められている」という皮肉は、よく考えると実はブッシュというよりもこういった議員達に対して向けられていたのだが。
 話はそれるがこのマケインというのは不思議な人で、CNNとか観ているとしょっちゅう出てくるし、イラク戦争を批判したドキュメンタリー映画『Why We Fight(なぜアメリカは戦うのか)』でもチェイニーと軍産複合体の関係を批判していたし、別に政府や党の重要な役職についているわけではないと思うがメディアを中心に国内での存在感は圧倒的なものがあるようだ。ある意味「変人」だったころの小泉首相と同じような位置づけなのかもしれない。しかしどうもクルーグマンはマケインのことが嫌いみたいで、「奴は穏健派なんかじゃなく、戦争が好きなゴリゴリの右派だ、騙されちゃいけない」なんてことを何回もコラムに書いたりしている。

 あと気になっているのは移民を送り出すほうのメキシコをはじめとしたラテンアメリカ諸国の方の社会や経済の変化がこの問題にどう影響しているのか、ということで、というのも僕自身がこの地域についてアメリカについて以上になにも知らないからだが、これについては神戸大学の西島章次教授の一連の仕事が大変参考になると思うのでウェブサイトをとりあえず紹介しておく。
http://www.rieb.kobe-u.ac.jp/~nisijima/

 特に、以下の二つの論文は、少し古いが90年代にラテンアメリカ全体で進んだネオ・リベラリズム的な経済政策や域内での地域統合の動き、およびその問題点についてわかりやすいまとめがなされており、移民問題を考える上でも非常に示唆に富むものだと思うのでお勧めしておきたい。

ラテンアメリカネオリベラリズムの成果と課題」(渡辺利夫編『アジアの経済的達成』東洋経済新報社2001年3月)
http://www.rieb.kobe-u.ac.jp/~nisijima/Neoloberalism.PDF

ラテンアメリカ−新経済自由主義の帰結と今後の課題−」(『世界経済評論』2001年2月号)
http://www.rieb.kobe-u.ac.jp/~nisijima/Sekaikeizaihyoron2001.2.PDF

 …というわけであまりまとまりがないけど、この問題についてはこちらもいろいろ要勉強ということで、とりあえずこの辺で。