梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

補足

 単に「嫁」ですますのもなんなので。

 中国の経済統計についてこれまでどういった点が問題とされてきたのか、ということについて、上記の小島論文(特にⅢ GDP の絶対値と成長率の評価をめぐって)を参照してもらえれば大体のことはわかるだろう。
 要するになぜ統計の信頼性が常に問題とされ、また頻繁にその見直しが行われるかという最大の理由は、中国の統計作成の方法がいまだ旧社会主義国における標準的な方法であったMPS(material product system)からSNAへの移行過程にある、ということに尽きる。MPSのもとでのGDPにあたるものとしては「国民収入」という統計が発表されていたが、サービス産業が「国富」の対象と見られておらずその付加価値がほとんど含まれていなかった。サービス部門の生み出す付加価値が実態に基づいて評価されるようになったのは1991〜92年に400万人を動員した大規模な初の第3次産業センサスが行われてからである。

 この結果が反映されるようになった1993年からMPSに基づく統計は姿を消し、またGDPに占める第三次産業の比率は大きく増加することになった(今回の上方修正に伴い、1993年までさかのぼってGDP値の修正が行われると発表されているが、それにはこのような事情がある)。それでも、小島論文(19ページ表9)にあるように、第三次産業の対GDP比は30%前後とアフリカなどの低所得国なみであり、低すぎると考えられていた。今回の経済センサスによる修正によりその比率は約40%にまで増加したとされるが、これは決して大きすぎる修正ではないことがこれによりわかる。

 ただ、小島氏は第三次産業の付加価値のカバレッジの低さとして、経済発展に伴い増加してきた零細な私営企業の経済活動の実態の補足が困難であることや、公共サービス部門の付加価値の補足が十分でないことなどをあげているが、今回の正式発表をみるかぎり、前者はかなり徹底的に改善が行われたいう印象があるが後者に関してどの程度改善されたのかちょっと不明である。また、小島論文によればGDP統計の過少評価の原因としてはサービス部門のカバレッジ以外にも帰属家賃の推計に関する問題などがあり、それはおそらく今回の修正には含まれていない。小島氏によれば

総じて公表GDP の絶対値は大幅に過小評価されている。しかし,成長率は過大評価されているように思われる。両者ともどのくらい過大,あるいは過小評価されているかと問われれば,絶対値の方は40〜50%はあるのではないか,後者は1〜2%という印象を受ける。

ということであるので、それから考えると今回の16.8%という修正はむしろ控えめすぎるという印象を受ける。もしかしたら今後また何らかの修正が行われるかもしれない。そのたびわれわれ研究者はデータを打ち直したり、計量モデルの推計をやり直したり、修正が行われる以前のデータとの整合性をつけるためにない知恵を絞ったり、なかなか大変ではあるが、いやもう慣れっこですから・・