梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

「中国的民主」の現実

 1月12日の日記id:kaikaji:20050112でちょっとだけ触れた 『世界』2月号掲載の鈴木賢氏の論考「中国に地殻変動は生じているのか」をようやく入手。一言で言うと、朱建栄氏(に代表される楽観論者)による、「中国は少しづつ民主化の方向に向かいつつある」という論調(SARS騒ぎをきっかけに政府の情報公開に対する意識の高まりが見られつつある、「市民」意識を持った中間層が台頭しつつある、農村での直接選挙の実施は「草の根民主」が根付きつつあることを示す、マスコミの論調の多様化は言論の自由の萌芽を示す、etc.)に対する、憲法を中心とした法制度論や最近の党−政関係、党ーマスコミ関係の現状の分析などを踏まえた痛烈な批判である。

(現代中国においては)憲法は依然として既存の権力保持者(=共産党)の利益のために現状の権力関係を凍結することを主要な目的としており、政治権力の制限に役立つのではなく、現在の権力保持者の支配を安定・永続化させるための道具となっている。これは典型的な「歪曲憲法」(レーヴェンシュタイン)であり、近代立憲主義が想定する「憲法」とはいえない。中国の憲法学者の多くはすでに憲政の要諦が権力の制約にあり、「有限政府」であることを指摘するが、憲法実践にはなお「憲政」とは大きな隔たりがある。

 これを「新左派」知識人たちのように、単なる西洋中心主義的な法学者による偏見として切って捨ててよいとは、僕には到底思えないのだが。『世界』もたまにはやるじゃない(なぜ2004年5月号の論考に対する批判が今頃になって載るのかは謎だが)。