梶ピエールのブログ

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ラディカル・オーラル・ヒストリー

 このところ入試業務がらみで毎日朝早く呼び出される上に勤め先ではあまり愉快ではないことばかり、というわけでやや出勤拒否気味の日々。せめて本くらい心が洗われるようなものを読みたい、ということですでにあちこちで話題になっている本だけれど、保苅実『ラディカル・オーラル・ヒストリー』御茶の水書房を手に入れて読む。まだ全部読みきれてはいないけれど、とりあえず「歴史と記憶」に関する問題を考える上で(そして、もしかしたら「法と正義」の問題を考える上でも!)必読リストに加えられるべき書物であることは間違いないだろう。

 しかし、日ごろ「ブログ界の法の番人」おおや氏の議論や、戸田山さんの『科学哲学の冒険』における実在論擁護論などをうんうんそうだよな、とうなずきながら読んでいながら、一方でこういった本に心惹かれるとはわれながら分裂してはいないだろうか。・・などと自らの立ち位置について悩むような時期は過ぎたのでもう悩まないが、ただ次のようなことは言っておきたい。この本についてはネット上でもすでにいくつか書評が発表されているけど、そのほとんどが、絶賛というより個人的な思い入れを過剰なほど前面に出した書き方になっているのが印象的だ。その気持ちは確かにわからないではない。ただ、僕が思うのはそうやってこの本が一種の神格化の対象となってしまうことは多分この本の著者が一番望んでいないだろう、ということだ。むしろ徹底的にその中身について議論され、批判され、その内容が乗りこえられることこそ、この本にはふさわしいのではないだろうか(これも一種の思い入れだが)。
 というわけで、この本の読み方としては、むしろ本書の内容とは一見対立するかもしれないような書物や議論を絶えず頭の中に浮かべながら、絶えずツッコミをいれ、それに対して著者はどう反論するだろうか?と意地悪く考えつつ読み進めていくのも「あり」ではないか、いやそれこそが「正しい」読み方ではないか、という気がするのだ。そういった容赦のないツッコミに対する、著者自身による回答が得られることはもうないにしても。


保苅実氏について
http://www.hokariminoru.org/j/index-j.html