かなり前にお送りいただいていたのだが、北京に行っていたりした関係でようやく昨日手にとって読み終えました。反応が遅くなり申し訳ありません。
- 作者: 田中秀臣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/02/21
- メディア: 単行本
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もうすでに多くの人がコメントしているので、本書の内容については僕が付け加えることはあまりない。というわけで内容とはあまり関係のない点を二、三あげておこう。内容のことをとりあえずおいておくとこの本の最大の特徴は、なんといってもこのような形でネット上ですぐにたくさんのコメントがつく点にあるのではないか。他にも経済学に関する啓蒙書の優れた書き手はたくさんいるが、これほどインタラクティヴな本を出せる人はほかにいないだろう。その意味では、本書はこのような事後的なネット上の反応も含めて一つの作品―あるいは「啓蒙」というプロジェクトの一環―としてみることのが適当なのかもしれない。
毒餃子事件のその後の顛末で改めて思い知らされたことだが、「経済学の常識が世間の非常識」になっている例は非常に多い。経済学者にとって、「研究」「教育」とならんで「啓蒙」は恐らく逃げることができない深刻な課題である。もちろん本書の記述についていろいろ突っ込みや異論はあるだろうけど、こういった著者のネットのインタラクティヴ性をフルに利用した「啓蒙」への姿勢はまず正当に評価されるべきだと思う。
そういう点で、個人的には、著者がフリードマンを高く評価する一方で生田武志氏の『ルポ 最底辺―不安定就労と野宿 (ちくま新書)』や山本譲司氏の『累犯障害者―獄の中の不条理』など社会の「底辺」を真摯に見つめた作品に対して掛け値なしの賛辞を送っている点が特に印象深い。本書の「啓蒙」の宛先として最もふさわしいのは生田氏や山本氏の著作に感動する一方で、経済学は胡散臭いと思っている人たちだろうから。
ただ、そういった人たちが本書を手にとったとして、「あれ?」と立ち止まるきっかけにはなるかもしれないが、その姿勢に深く納得するようになるのはちょっと難しいかもしれない。そういった人々を本気で啓蒙するには「軽快さ」だけではなくある程度「暑苦しさ」も必要なように思うからだ。この点は福田徳三論などを中心に着々と準備されているらしい著者の次作に期待しましょう。