梶ピエールのブログ

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出張中に読んだ本(上)

 

中国 消し去られた記録:北京特派員が見た大国の闇

中国 消し去られた記録:北京特派員が見た大国の闇

 現代中国について書かれた時論的な性格を持つ書物というのは、私の書いた本も含めてたいてい10年もたてば全く読む価値のない、ごみ箱行きの運命を免れないものがほとんどでしょう。まあ、それでも需要があるから出版されるわけですが。
 しかし、この城山さんの本は間違いなく20年後、30年後にもその価値を失わないで残っていくでしょう。それなりの値段はしますが、中国の民主化や人権問題に関心のある人なら、絶対に買って資料として手元に置いておいたほうがいいと思います。この本が特筆すべきなのは、著者は取材者としていわば黒子に徹していて、あくまでも取材対象となる人権弁護士や社会運動家といった人物、ならびに事実をして自ずから語らしめる、という姿勢が貫かれている点です。これは言うほど簡単なことではありません。たいていの時論的な書物は、自ずから語らしめるほど人物や事実に肉薄することができず、その隙間を自らの薄っぺらい思想や俗論へのおもねりで埋めてしまいがちなものだからです。それに対して本書では一見淡々とした禁欲的な語り口の裏に「何とかしてこの人々の声を日本の読者に届けたい」という著者の取材対象に対する情熱的な思い入れが感じられ、読者はその情熱を媒介にして取材対象となった人々の肉声がよりストレートに感じ取れるようになっています。この本の長きにわたって失われないであろう輝きとは、何よりもそれらの肉声の輝きにほかなりません。

 本書のより具体的な内容については、日経新聞6月12日付の加茂具樹さんによる書評をお読みください(リンクは有料記事ですが)。