梶ピエールのブログ

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2012年の読書:中国との関わりかたを考える本

 今年は日中国交正常化40周年とそれをぶちこわすような尖閣問題の発生があった、ということで、日中関係を改めて問い直すような本が多数出版されました。・・が、正直なところこちらの食指が動くようなものはあまりありません。
 そんな中で、個人的に面白かったのは、最近出版されたこの2冊です。

日本人は中国をどう語ってきたか

日本人は中国をどう語ってきたか

 この二冊は著者の立ち位置も、扱っている対象も、論述のスタイルもまるっきり対照的です。前者は日本思想史研究の重鎮が、明治以来の日本の知識人による中国論の丹念な読み直しを通じて、「日本思想にとっての中国」とはどういったものか、そしてそれが欠落させてきたものは何か、をあぶり出そうとするもの。学術書に近いハードな文体で書かれています。
 それに対して後者は、中国のネット事情を紹介するブロガーとしてデヴューして以来、着実に芸域を広げてきた若手ライターによる、中国に根を下ろして生活する日本人を取材した、本格的なルポルタージュです。全体的に「日中関係かくあるべし」といったお説教臭さとは無縁の、ライトで読みやすい文体で書かれていますが、その中に著者の批評精神が一本流れている、優れた作品になっていると思います。

 正直なところ、この2冊の本については読者層というか、ハマル人というのはあまり重ならないように思います。でも、僕にはこの2冊は、日本と中国との関係を考える上で示唆に富むと言うだけではなく、相互補完的に読めるような気がして仕方がないのです。前者は知識人や学術界が、どう中国と関わるかを考える上で避けて通れない問題提起をしていると思うし、後者は、そこから抜け落ちる「庶民」の中国との関わりを考える上で秀逸です。
 というわけで、この2冊をどのように結びつけて読むことができるか、という文章を鋭意考え中です。とりあえず冬休みの宿題ということで、あまりあてにせずにお待ち下さい。