梶ピエールのブログ

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12月21日(月)発売の、『週刊東洋経済』12月26日-1月2日合併号の読書特集ページ「有識者5人が選ぶ 年末・年始に読みたい75冊」に、「中国の歴史と社会」(「経済と政治」ではなく)に関する15冊のお勧め本のリストを挙げています。新書や文庫本、選書などできるだけ入手しやすく読みやすい本を挙げたつもりですが、最後には、特集の趣旨からは逸脱しているかもしれませんが、こんな本も挙げています。

ゾミア―― 脱国家の世界史

ゾミア―― 脱国家の世界史

 しかし、個人的にはこの本は中国における国家と民の関係を考える上でも必読の書ではないかと思います。「ゾミア」とは中国西南(雲南省から貴州省にかけて)からインドシナ北部に拡がる山岳地帯で、多様な文化を持つ少数民族が居住していることで知られています。スコットは、それらの諸民族を「国家による支配を逃れるため山地に移り住んだ」人々として描いています。中国史の観点からみて注意すべきなのは、共産党の支配が確立する時期が交通インフラの整備によって「ゾミア」が消滅する時期と重なるという点です。アジア的な専制国家の存在は、そこからの駆け込み寺ともいうべき「ゾミア」の存在と表裏一体となっていたのだとしたら、それが消滅した状態において専制的な支配が持続することは一体どういう事態を生むのか。このような「問い」を考え抜くことが、中国を含むアジアの政治の「過去と現在」を読み解くカギの一つとなるような気がします。