梶ピエールのブログ

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 12月23日発売の、『週刊東洋経済』12月28日・1月4日合併号のコラム「中国動態」に寄稿しました。このところその価格の乱高下振りが話題になっていたビットコインのブームに便乗して、その中国経済との相互関係について考えてみました。

不動産のような投機対象と異なり、ビットコインのような仮想通貨の価格動向は国境を越えて前世界中に伝播する。これまで、中国のバブルが崩壊しても、人民元がハードカレンシーではないため、世界経済に対する伝播の効果は限定的なものにとどまると考えられていた。しかし、人民元が国際化する前に、中国の過剰マネーがより大規模な形でビットコイン市場に流れ込み、主要通貨の為替レートや各国の株式市場に影響を及ぼすような状況が生まれるかも知れない。

 ビットコインについてはよく知られているように中国人民銀行が12月5日に金融機関の取り扱いを禁止した後にその相場が急落しましたが、その後ビットコインの世界最大の交易所であるBTCChinaが人民元の新規入金を停止したことをもって、「バブル」崩壊の動きは決定的なものとなりました。逆説的な言い方をすれば、ビットコインが上記のような「可能性」を持っていたからこそ人民銀行はその目を早いうちに潰す動きに出たとも言えるでしょう。そもそも、こういった先端的な現象をメジャーなメディア(私のコラムがそうであるかはともかく)がこぞってとりあげるときはたいていブームは終わりかけている、というのが「法則」のなのかもしれません。

 ただ、個人的に興味深かったのはハイエクの「自由発行通貨」を体現したものと言われるビットコインが、実際は思ったよりも「国家」の動きに強く規定されていた、ということです。以前書いたSYNODOSのコラムで、中国経済の「不確実性」をその市場秩序が「自生的」なものであることに結びつけて論じたことがありますが、この「自生的な市場秩序」も、(ハイエクが考えたのとは異なり)常に「国家」の存在感の大きさとセットで考えなければならないような気がします。こういった、いわば「国家が強いからこそ生じる自生的秩序」という観点から今回のビットコインの問題もとらえ直すことができるかも知れない。なんとなく、そんなことを考えているところです。