梶ピエールのブログ

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中国の金融政策・次の妙手なるか

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070326-00000612-reu-bus_all

[上海 26日 ロイター] 中国は外貨準備を一部運用する新機関の設立を計画しているが、これによってマネーサプライの伸びが鈍化し、国内の銀行・不動産株が打撃を受ける可能性がある。JPモルガンの上海での合弁資産運用会社であるチャイナ・インターナショナル・ファンドマネジメントのルー・ジュン最高投資責任者(CIO)が指摘した。
 国有メディアや政府当局者によると、新機関は、人民元建て債券を発行し、2000億─3000億ドル相当の外貨準備を中国人民銀行中央銀行)から購入するとみられている。新機関は年内には設立されるとエコノミストは予想している。
 ルー・ジュンCIOは「この動きが資金流動性に与える影響は、預金準備率引き上げの約10倍に相当する。投資家の多くは、これらリスクの重大性に気付いていない」と指摘。とりわけ銀行・不動産株が、流動性低下の影響を受けるとした。

 中国政策当局の「過剰流動性」回収の動きが本格化しつつあるようだ。この「外貨運用会社」方式だが、基本的な方針はどうも今年初めに行われた全国中央金融工作会議の際に決定されていたようである。ただし鳳凰財経の金融工作会議の報道では、政府系の投資ファンドである中央匯金公司が外貨の運用を行うという構想が述べられているが、ロイターの報道では「新会社」を設立となっている。この辺でどういう方針の変化があったかはわからない。

 さて、外貨運用会社が外貨準備を運用することがなぜ「過剰流動性」の解消につながるのか。

 中国人民銀行中央銀行である以上、資産である対民間債権、対政府債権、対外純資産などの残高が増加するのにあわせて負債であるベースマネーの発行を行っている。ただし、近年の中国の場合、周知の通り対外資産の伸びが圧倒的で、ベースマネーの伸び率がほぼこれで説明できるという状況が続いていた。あまりに急速な対外資金の流入がインフレを引き起こすのを押さえるため、中国人民銀行はここ数年中央銀行債(手形)を積極的に発行する不胎化オペを行ってきた。不胎化オペの手段としてもっぱら中央銀行債が用いられたのは、国債は満期まで保有するケースが多く流通市場の規模が小さいこと、社債市場はそれに輪をかけて小さいことなどの理由による。しかし、その発行残高がすでに3兆元(ベースマネーの約45%)近く達していること、1年ほどの短期の手形が中心であるため、既に発行した分の償還期限が次々とやってきていること、利払いが中央銀行にとって大きな負担になっていること、などから、そろそろ限界に来ているとの見方が強まっていた。手形が過剰発行気味で市場での消化が困難なため、最近は銀行への「強制割当」が行われることも増えている。

 今回の構想は、新たに設立された「外貨運用会社」が長期(恐らく10年もの)の債権を発行して人民銀行から対外資産(その多くは米国債)を買い取り、より高い収益率での運用を目指すものである。もちろん、運用会社が対外資産を買い取った段階では、人民銀行の対外純資産の一部が国内の資産会社向けの債権に振り変わるだけであり、そのままではベースマネーの発行量は変化しない。しかし、当然のことながら人民銀行は、買い取った運用会社債権の市場での消化を視野に入れているものと思われる。上記ロイター記事で「資金流動性に与える影響は、預金準備率引き上げの約10倍に相当する」とあるのは2000億─3000億ドルという債権発行額*1が一気に市場消化された際の話で、実際にはそれほど急速な売りオペはなされないだろうと思われる。

 「金融を引き締めたいなら為替制度を自由化すればいいじゃん」という声もあるが、中国経済の現状を踏まえれば、以上のような(ややこしい)引き締めの方式をとることは、場合には、為替取引の自由化を一気に行うよりもいくつかの点で優れていると考えられる。最大の利点は債権の売りオペを段階的に進めることによって、中央銀行の主導による「漸進主義的な金融引き締め」が行えることだろう。また、当然のことながら為替レートの急激な上昇による国内産業への打撃を押さえることができるという利点もある。さらにもう一つの利点は、この売りオペを通じていまだ未発達な国内CP市場、さらには資本市場全体の育成を図れることだ。先日報道された上海銀行間出し手金利(SHIBOR)を、コマーシャルペーパー(CP)市場の基準金利として採用する、という動きもこの流れの中で理解できる。十分な公開市場操作の手段、および為替リスク回避のための先物市場が発達しないままに為替取引の自由化を行うことは、あまりに危険である。

 ただ、この「外貨運用会社」構想で気になるのは、短期金利の調整をどうするのか、ということだ。近いうちに次の利上げが予定されている、という指摘もあるが、おそらくそれほど大きなものになるとは考えられず、金利規制自体はしばらくは継続しそうである。名目金利が低い水準で固定されているなかで金融引き締めが行われれば、当然インフレ率が下がり、実質金利の上昇が生じるはずである。ただこれをやりすぎると、朱よう基内閣当時の1998年以降の数年間のようにデフレになってしまう。もっとも、当局としては、アジア通貨危機の影響をもろにかぶった1990年代末とは異なり、市場の動向を見ながら裁量的に売りオペを行い、さらには小幅な利上げを組み合わせることにより、インフレ率のコントロールを行うことが可能だと見ているのかもしれない。

 ・・というわけでざっと今後の中国の金融政策についての見通しを述べてみた。個人的な感想では今回の「外貨運用会社」構想は、現在の中国がおかれたさまざまな問題ををぎりぎりのところでクリアするかなりの妙策である、と言う印象をもつ。ただ、本当に高い運用利益を得られるのか、ということは今後の世界経済の先行き次第であり、もし運用成績に不安があれば債権の市場消化にも不安が生じよう。市場消化が進まず銀行に対して強制割当、と言うことにでもなれば現在の状況と基本的には変わりはない。他のリスク要因としては他のマクロ政策、とりわけ財政政策との整合性があげられるだろう。前のエントリでも少し述べたが、ちぐはぐな財政政策が今後金融政策の足を引っ張ってしまう可能性は大いにあるのではないだろうか。

※4月13日追記
http://www.tsugami-workshop.jp/blog/index.php?year=2005&month=6&categ=

*1:上記「鳳凰財経」の報道で、「中国にとってふさわしい外貨準備は7000億ドルから8000億ドル」という話が出ているので、そこから逆算されたものと思われる