梶ピエールのブログ

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ユン・チアン=ジョン・ハリディ『マオ:誰も知らなかった毛沢東』

 思ったより早く翻訳が出た。というかアメリカ版(10月発売)とほとんど同時だな。アメリカ版のほうは、著者が11月初めにUCBに講演に来るということを聞いていたこともあって出てすぐに手に入れていたのだが、それからほどなくして日本語訳がでた、と聞いたときには、なんとなく悔しいような、残念なような、妙な気分に襲われたものだった。今になってよく考えると、それはたぶん次のような理由によるものだったろう。

1.翻訳が出たと知ったとたん、せっかく「さあ、英語の勉強もかねて頑張って読むぞ」と張り切っていた気持ちが萎えてしまったのが残念。
2. 「英語版で760ページもあるが、面白いので一気に読んでしまった」と書けるほど自分に英語力がないのが悔しい。
3.日本語版が出るまでの間、「僕はもう原書を読んじゃったもんね」というささやかな優越感に浸る機会を喪失してしまったことが残念で悔しい。

 ただ、表紙の装丁はどう考えてもアメリカ版(写真)の方がイギリス版や日本語版よりはるかにナイス(ベタベタ、ともいう)なのと、参考文献リストと注がついているにもかかわらず割安なのが、せめてもの慰め(?)だが・・

目に付いたところでは、加藤哲郎先生が早速とりあげて大絶賛している。

「赤い資本主義」中国の生成のルーツが、あの世界1千万部のベストセラー『ワイルド・スワン』の著者ユン・チアンによって、暴かれました。講談社から邦訳の出た『マオ:知られざる毛沢東』の面白さは、尋常ではありません。別に、私が先月中国に行ってきたからとっつきやすいというだけではなく、平易な叙述にドラマチックな構成で、分厚い上下計1200頁が一気に読めます。

中略

それもそのはず、共著者は、ユンの夫でソ連史にも詳しいジョン・ハリディ教授。英語圏日本帝国主義分析では、「日本=ポスト・フォード主義国際論争」を組織した私や故ロブ・スティーヴンにとっての大先輩でしたし、朝鮮戦争や戦後アジア史を勉強した人は、ブルース・カミングスやギャバン・マコーマックと一緒の仕事で、おなじみでしょう。つまり、イギリスのラディカルなアジア研究者が、膨大な第一次史資料を分析し、文革体験者である妻のユンと一緒に世界中でインタビューして描いたノンフィクションで、現代中国史の重厚な研究書でもあるのです。

個人的には、特に興味をひかれたのは次の箇所だ。

日本についての記述は相対的にわずかですが、インタビュー相手は、三笠宮崇人、二階堂進官房長官、有末精三中将から日本共産党宮本顕治野坂参三不破哲三まで、学会関係者も、中島嶺雄・竹内実・秦郁彦衛藤瀋吉藤原彰と、急所を押さえています。私たちの先頃完結した「戦後初期沖縄解放運動資料集」全3巻(不二出版)の基本資料提供者金澤幸雄さんのお名前もあって、その目配りに感心しました。

確かにこの人選は心憎い。本当は日本人の研究者がこういう仕事をしないといけないと思うんだけど、と余計なことを言いそうになるのをぐっとこらえて(すでに言ってるって)、ここまで絶賛されたら、英語でも日本語でもいいから、とにかく早く読まねば。

参考:
ウィキペディア(英語)による紹介(英国における書評や、本書が巻き起こした論争についてもフォローされている)。
http://en.wikipedia.org/wiki/Mao:_The_Unknown_Story