二重の罠を超えて進む中国型資本主義: 「曖昧な制度」の実証分析 (MINERVA人文・社会科学叢書 209)
- 作者: 加藤弘之,梶谷懐
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2016/03/30
- メディア: 単行本
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様々な問題を抱える現代の中国経済を、「中所得国の罠」と「体制移行の罠」という「二重の罠」に陥っているかどうか、という観点から実証的に研究する3年間の科研プロジェクトの成果です。企業のイノベーションおよび格差や腐敗問題などの具体的な問題を、中国経済特有の「曖昧な制度」をキーワードとした長期的なパースペクティブから分析した論考が並んでいます。
目次は以下の通りです。
序 章 中国は「二重の罠」を超えられるか(加藤弘之)
1 中国が直面する「二重の罠」
2 「曖昧な制度」としての中国型資本主義
3 本書の構成第?部 「中所得国の罠」を超えて
――都市化、産業構造の高度化とイノベーション第1章 戸籍制度改革と農民工の市民化(厳 善平)
1 本章の背景と狙い
2 戸籍制度改革のメインストリーム
3 中国型都市化の展開と特徴
4 大都市の戸籍制度改革―上海市を事例に
5 戸籍制度の功罪と今後の展望第2章 農村都市化と集団経済の変容(任 哲)
――郷鎮と村の関係をいかに捉えるか
1 曖昧な制度としての郷鎮と村の関係
2 村は郷鎮政府の出先か
3 都市化と村長の裁量権
4 郷鎮政府の対応
5 村民自治は将来があるのか第3章 地方政府間競争と財政の持続可能性(藤井大輔)
1 地方政府間競争のセッティング
2 地方政府間競争の手段獲得のための財政収入行動
3 財政支出を通じた政府間競争の実証分析
4 財政の持続可能性第4章 産業構造の高度化と産業政策(日置史郎)
――在来産業の高度化を中心に
1 近年の中国における産業高度化と産業政策
2 実証分析―産業政策を享受しているのはどんな企業か
3 結論とこれからの課題第5章 世界金融危機以後の広東省経済(伊藤亜聖)
――NIEs論と「世界の工場」論を超えて
1 変わりつつある広東省経済
2 改革開放期における広東省経済研究の系譜
3 世界金融危機と「外向き型経済」の変調
4 構造改革政策以後の広東省経済
5 NIEs論と「世界の工場」論を超えて第6章 技術開発環境とR&D(木村公一朗)
――電機・電子産業のケース
1 技術開発環境がR&Dに与える影響
2 技術開発体制の変化と問題意識
3 分析方法
4 分 析
5 技術開発重視型の経済になるか第?部 「体制移行の罠」を超えて
――民営化、格差と社会的公正
第7章 民営化、市場化と制度化の連鎖関係(中兼和津次・三竝康平)
――民営化は市場の発展に必要か
1 本章のねらい―漸進主義と民営化
2 文献サーベイと仮説
3 分析枠組と分析手法
4 民営化、市場化、制度化の定義と指標の取り方
5 考 察
6 理論的、政策的含意
7 今後の研究に向けて第8章 労働分配問題からみた「国進民退」(梶谷 懐)
――所有制と格差問題
1 曖昧な「国進民退」概念と労働分配率の低下
2 企業間の賃金・労働分配率格差に関する既存研究
3 傾向スコアを用いた労働分配率格差の分析
4 分析手法、データ、分析結果
5 労働分配率の格差にみる「曖昧な制度」第9章 国有企業と市場競争の質(渡邉真理子)
――体制移行の罠をもたらす制度と実態
1 国有企業をめぐる制度と政策の変遷
2 国有企業と市場競争の質
3 競争中立性への注目第10章 「国進民退」と企業ダイナミクス(陳 光輝)
1 「国進民退」の統計的根拠
2 国有企業の整理・民営化は停滞したか
3 民間企業の参入や成長は阻害されたか
4 生産性の問題
5 何が問題か第11章 中国企業の対米投資(大橋英夫)
――摩擦・軋轢の争点は何か
1 資本輸出国=中国の台頭
2 中国の対米投資
3 中国の対米投資の争点
4 対米投資にみる中国経済の特徴
5 対米投資と「二重の罠」第12章 都市部における所得格差と主観的幸福度(馬 欣欣)
1 問題提起―なぜ都市部における所得格差と主観的幸福度に注目するのか
2 先行研究から得た知見と本研究の特徴
3 実証分析の方法
4 中国における所得水準、所得格差と主観的幸福度の実態
5 実証分析の結果
6 結論と政策示唆第13章 農民の所得格差拡大に対する寛容(星野 真)
1 所得格差の拡大と社会的不安定の増大
2 住民の所得格差に対する問題意識
3 四川省江油市7村における所得格差と問題意識
4 所得格差拡大に対する寛容の計量分析終 章 どこへ向かう中国型資本主義(加藤弘之・梶谷 懐)
1 「新常態」におけるマクロ経済の動向
2 深刻化する格差・腐敗問題への対応
3 新たな成長戦略の模索―「一帯一路」構想と新型都市化政策
4 あらためて問われる漸進主義改革の有効性あとがき
索 引
※4月14日追記:
山下ゆさんのブログ「西東京日記 IN はてな」で、本書の内容について詳しく紹介していただきました。以下のような評価は特にうれしく思います。ありがとうございます。
専門性の高い論文が並ぶ値の張る本ではありますが、中国の経済や社会を理解したいと思っている人には勉強になるものが多いと思いますし、中国に強い興味はなくても中国の地方制度や格差を論じた部分は面白く読めるのではないかと思います。特に中国の地方制度を論じた前半の論文は政治学畑の人も興味深く読めるのではないかと思います。