ちょっと前のことだが、NHKスペシャルで二日続けて中国の「いま」に関する硬派のドキュメンタリー「激動中国」が放送された。4月1日放送分の「富人と農民工」は、あまりに描き方が図式的過ぎ、かえって「富人」達が莫大な富の蓄積を行うことを可能にしている社会制度上の問題や、「民工荒」や「新農村建設」など農民をめぐる状況や政策がめまぐるしく変化するなかで民工たちの生活がどう変化しているのか(取材を行ったのがいつのことなのか正確な情報がないのは残念だった)、という点について十分に踏み込めていない印象が強く、あまり感心しなかった。
しかし2日に放送された中国の新興週刊誌『南風窓』編集部に密着取材した「ある雑誌編集部 60日の攻防」は大変見ごたえのある内容だった。『南風窓』と陳中社長は、実は以前に取り上げたグラナダテレビの番組にも登場しているが、そこでは基本的に「政府の干渉も恐れずタブーに切り込む反骨精神にあふれたジャーナリズム」という図式的な描かれ方しかされていなかった。それに比べ、実はその紙面つくりが老獪な陳中社長の現実への妥協と算盤勘定の産物であり、その生ぬるさにより若く血気盛んな編集者達が不満を募らせている、という実態を明らかにしたNHKの取材は見事だ。僕自身はこのブログで何度も取り上げているように『財経』のファンであって『南風窓』はほとんど読まないのだが、この番組を見てむしろこの陳中氏という一筋縄ではいかない人物にかなりの好感を持った。何清漣女史のように中国の「外部」から厳しい批判を繰り広げるジャーナリストや学者も増えているが、本当に現実を変える力を持つのは陳中氏のような片足を泥沼に突っ込みながらしたたかに仕事をするタイプではないかと思えてならない。
さて『南風窓』だが、実はその記事は『人民中国』でもたびたび取り上げられていて(「メディアフォーカス」)、こんなところにもこの雑誌のしたたかさが感じられるのだが、ちょっと調べたところでは、これまで『財経』の記事が『人民中国』で取り上げられたことはないようだ。この違いがどこから来ているのか、ちょっと気になるところではある。
参考:http://www.21ccs.jp/china_watching/DirectorsWatching_YABUKI/Directors_watching_16.html