なかば流行に釣られて、なかば仕事上の必要性からインドについてにわか勉強をはじめているところなので、下のエントリで紹介したドキュメンタリーも毎回録画してみているが、特にBSで放送されたヨーロッパの番組は成長著しいインドの「影」の側面に容赦なくメスを入れていて興味深かった。2月5日の放送分は、近年欧米の大手製薬会社が新薬の治験をインドで行うケースが増えており、その結果かなり安全に問題のある新薬も十分な説明がなされないまま投与され、副作用に苦しむ人々が増えている実態を告発するもの。インフォームドコンセントの概念が十分に理解されず、タダでもらえる薬を飲めば自分の病気がよくなると信じて治験に参加する患者が極めて多いことが問題をもたらしている。医者は自分の病気を治してくれるありがたい存在であり、それを疑うことなど思いもよらない、といった患者達の表情が深い印象を残す。
2月6日は繊維関係のスウェットショップの話。といっても単に低賃金・長時間労働を問題にするのではなく、工場の劣悪な環境対策による健康被害の実態を告発するものだ。それにしても映像に納められた工場の労働条件のあまりの劣悪さにはただただ衝撃を受ける。この番組はデンマークで制作されたものだが、製作者は繊維製品のバイヤーであると偽って工場に潜入し、塩素系の薬品のプールで腰までつかり有毒ガスをもろに吸う労働者などの映像をばっちりカメラに収めた後、即刻この工場に生産を委託しているアパレルメーカーの経営者に見せるという荒業をやってのけている。このような潜入レポート的な取材方法も驚きだが、企業の経営者が嫌がらずにジャーナリストに会って問題点を認め、改善を約束すると即答している点も興味深い。こういったヨーロッパのメディアの「人道主義のためなら何でもあり」といった姿勢には時々ついていけないと感じることもあるのだが、企業の社会責任に基づいて途上国における深刻な問題を改善していこうという姿勢については、大いに学ぶべき点がありそうだ。
さて中国でも華南における繊維産業の工場などで似たようなケースはあるかもしれないが、ここまでひどい例を見聞したことはない(工場排水による環境汚染で「がんの村」などと呼ばれているケースはあるが)。インドの工場のケースがひどすぎるのか、中国でも存在するが単に取材ができないのか、いろいろ考える点は多そうである。