梶ピエールのブログ

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『諸君!』7月号

 細井前編集長が退いて明らかなタカ派路線復活かと思われた『諸君!』だが、7月号の誌面は相変わらずごちゃ混ぜ的で楽しい。中国批判のためにアンドレ・グリュックスマンまで引っ張り出してくるとは(ぜんぜん大したことは言ってないのだが)。

 中国関連の記事についてはまたおいおい言及するとして、とりあえず目に付いた書評欄から。池内恵氏が『中村屋のボース』ISBN:4560027781を書評。全体として高く評価しつつも、アジア主義についての捉えかたは山室信一小熊英二といった先行者たちの議論の枠組みに依拠しすぎているのではないか、と指摘。それはまあその通りじゃないかと思う。だいたいこの中島さんという人は文章から判断する際にかなりの熱血キャラのようなので、小熊さんの路線を踏襲してもあまり面白くないような気がする。どうせアジア主義を語るのであれば、もう少しアブナイ領域にも踏み込みつつ、現代の「東アジア共同体」構想が果たしてかつてのアジア主義の良質な部分を継承しえているのか、といったことまで射程に入れたスケールの大きな議論を展開して欲しい、などと無責任に妄想を膨らませてみたりする。

 そして宮崎哲弥氏の名物連載「今月の新書完全読破」では、巷で話題の高橋哲哉靖国問題』ISBN:4480062327をなんと今月のワーストに指定!まあこの本については以前gachapinfanさんのところ(id:gachapinfan:20050416)で書いたように中国の現実について非常に甘い見方をしているのは問題とは思うし、確かに事実関係はよく調べて整理されているものの思想的にはレヴィナス=小泉=内田のラインを超えるものではなくむしろそこから後退していると僕などは思っているので(ただこの点に関してはまだうまく議論が展開できないのだが)、言いたいことはいろいろある本ではあるが、「ワースト」とまで言いきるか。
 だって、この人がこれまで取り上げた「今月のワースト」といったら、例の岩月謙治教授の御著作をはじめとして、あきらかに「こりゃ,ひでー」というようなものばっかりだったんですよ。宮崎先生、こりゃ完全にケンカ売っとりますな。どうせならもっと真正面からガチンコ勝負を挑んで欲しい、とこれまた無責任な野次馬的感想を抱いた次第でした。

なお高橋氏の本はほかに『戦後責任論』が「一読惨憺」というコラムで取り上げられているが、こちらはコラム自身が名前のとおり本当に惨憺たる内容なので笑える。