- 作者: 安達誠司
- 出版社/メーカー: 藤原書店
- 発売日: 2006/05/01
- メディア: 単行本
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本書についてはすでに多くの経済学系ブログで言及がなされているので、内容の紹介は省略して感想のみをメモ程度に。
本書の画期的な点は、言うまでもなく戦前の日本の外交・経済政策史を「政策レジーム間の競争」から検討するという視点を打ち出したところにある。その中でも特に重要なのが、日本にとって大きな転換期となる戦間期において有力であった「政策レジーム」のうち、植民地の放棄と対外貿易の振興をうたった「小日本主義(シャオリーベン主義、ぢゃないよ)レジーム」を、国際協調主義という点では共通するものの、実は大国間のゲームのルールに追随しアジアでの経済権益を確保しようとする路線であった「ワシントン・レジーム」と明確に異なるものとして描き出した点だろう。
従来の戦前の日本の対外政策について語られるとき、保革を問わず、「対アジア膨張主義(=「大東亜共栄圏レジーム」)」こそが諸悪の根源とされ、対英米協調主義の重要性が強調されることが多かったのではないだろうか。その意味で浜口・井上体制における「ワシントン・レジーム」の経済政策面での失敗、およびそれを引き継いだ犬養・高橋体制の、外交面で対外膨張主義を払拭できなかったという「小日本主義レジーム」の「疑似」性こそが、「大東亜共栄圏レジーム」の台頭を招いたという本書の指摘は、通説への挑戦になっているだけでなく、現在の日本がおかれた内政・外交上の状況を考えた時あまりにも示唆的だといえるだろう。
そういった観点からもう一冊興味深かったのが、やはり最近出版された以下の本である。
- 作者: 河辺一郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/04/14
- メディア: 新書
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本書には、これまでの日本の外交のありかた、及びそれを検証すべき研究者やジャーナリズムまでを含めて徹底的に批判しようとする姿勢が強いあまりやや安直な「日本ダメ論」に陥っていたり、全体的に国際社会における経済的な利益の追求を「人権」や「平和」といった普遍的な理念の追求より一段低いものとしてみる姿勢があらわで(その点が安達本の姿勢との大きなの違いだ)、その点には正直言って違和感を持つ。
が、個人的には反日デモとは全く別に安保理常任理事国入り推進派のロジックが当時からどうも胡散臭く思えて仕方なかったので、本書の丁寧な検証に基づいた明快な説明−従来は国連中心主義を盾にしてアメリカの武力行使を支持してきたのに、アメリカが国連を無視してイラク戦争を始め以前の立場と整合性が取れなくなったため、つじつまを合わせるため単独の武力行使を容認するような国連改革に積極的になる必然性が出てきた―は非常に説得力があるように思えた。
戦後日本の外交はすっかり「小日本主義」に転じたとかあるいは「ミドル・パワー」外交であったとかいうことがこれまで言われてきた。しかし、本書を読むと、少なくとも冷戦崩壊後の日本の外交は、大国(現在では圧倒的にアメリカ、だが)の「ゲームのルール」に従うことでその末席につながろうという、いわば戦前の「ワシントン・レジーム」的な思考の呪縛をかなり強く受けているのではないか、と思わざるを得ない。
というわけで、本書は安達本と合わせて読んだとき、特に示唆的であるように思えた。