梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

日銀、量的緩和政策解除を決定。

 いや、日本経済についてはできるだけ論じないようにしているんですが、巷であんまり盛り上がっているのと、こういう議論においてあまり言及されることのないS&G『新しい金融論』で、今回の状況を強く連想させるような記述に出あったもので。以下、スティグリッツ=グリーンワルド『新しい金融論』ISBN:4130402099 127ページ注17)より。

2000年に連邦準備銀行Fed)はインフレーションを心配して、経済を減速させるためにρ(TB金利)を引き上げた。強硬なインフレ反対論者は、TBの名目金利がインフレ率の増加とほぼ同じ程度にしか上昇していないことを見て、Fedが十分積極的に行動していないと批判した(ただし、インフレ反対論者はほとんどの国内生産者にとって関連性の強いインフレ率ではなく、消費者物価のインフレに関心を当てている)。しかし、実のところは、経済環境の変化がスプレッド*1の大きな増加をもたらすという事実をFedは考慮できず、借り手は高金利に見舞われていた。そうした意味で、金融政策は相当に引き締め的だったのである。引き締め政策のおかげで、経済は減速してしまった。

 「経済環境の変化がスプレッドの大きな増加をもたらす」という点に注目。つまりここでは表面的な金利の上昇幅がそれほどでもなくても、政策スタンスの変化が将来さらなる引き締めがあるのではないかという「期待」をもたらすことにより、それが企業への貸出に対するリスク評価の上乗せなどを通じて、実際にはかなりの引き締め政策として機能してしまうことが強調されている。このことは、たとえゼロ金利政策がこのまま続けられても経済が結果的に「引き締まって」しまう可能性は十分にあることを示唆している。また、「インフレ反対論者はCPIの上昇に関心を当てている」という指摘も、まさにその通りとしか言いようがない。
 それにしても、以下の韓リフ先生による解説は至言だなあ(強調筆者)。

さらに市場がすでに利上げを予想しているので 爆 現状の市場の予想を放置したままでは経済は不安定化する可能性が強い。日本銀行はサードベストをサードベストなりに遂行するには今後必死にこの利上げ期待と闘う必要がある。
それを放置したら厨銀です。

*1:TB金利と、貸出金利との間のスプレッドを指す。S&Gは実体経済に影響を与える変数としてTB金利の水準自体よりもこの金利スプレッドを一貫して重視する。