「米中戦略経済対話」に参加のため北京を訪問していたバーナンキFRB議長の中国社会科学院でのスピーチと、Financial Timesの紹介記事。人民元問題に関する彼の主張は、ざっとこんな感じ。
・現在の低すぎる人民元レートは、輸出業者に対する実質的な補助金(この'subsidy'という言葉は実際のスピーチでは削られたようだ)であり、貿易と生産の構造に歪みをもたらしている。
・対外貿易の不均衡を是正し、家計の厚生水準を引き上げるための最も効果的な手段は、鉄鋼や輸出産業など特定の製造業に偏った投資を社会保障分野に振り分け、貯蓄率の低下を図ることである。
・人民元レートの適性水準への是正は、特定の産業に対する投資の過度の集中を抑制し、資源のより効率的な配分に寄与するはずである。
・さらに、人民元の変動幅の拡大は、効率的かつ自立的な金融政策のもとでの「成長と安定」を中国にもたらすだろう。
というわけで、人民元問題に関しては「変動幅の拡大が先か」「国内金融システムの整備が先か」、という議論があるが、バーナンキはかなり強固に変動幅の拡大を主張する立場のようだ。ただし、これが彼の現在の政治的ポジションと無関係なものかどうかは…
上記のロジックについて言えば、特定の産業に偏った投資を社会保障などに振り分けるべきだ、と言う主張はその通りだが、為替レートの適性水準への誘導によってそのような望ましい資源配分が促進される、という楽観的な考えにはやや疑問がもたれる。国内投資資金の「特定の産業」(鉄鋼・自動車・アルミなど)への集中は、為替レートのゆがみといったマクロ的な要因よりも、むしろ国有企業改革の遅れや地方政府による地元経済への強力な介入など、ミクロ的な制度改革が進んでいないことにより生じていると考えられるからだ。