梶ピエールのブログ

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お仕事のお知らせ

 研究メンバーとして参加しているRIETI(経済産業研究所)のグローバル・インテリジェンス・プロジェクト(国際秩序の変容と日本の中長期的競争力に関する研究)の研究科であるDiscussion Paper、"How Does Industrial Guidance Funds Affect the Performance of Chinese Enterprises?" (陳光輝氏(神戸大学)、三竝康平氏帝京大学)との共著)が、RITIのウェブサイトで公開されました。

(英語サイト)
https://www.rieti.go.jp/en/publications/summary/22120002.html

(日本語サイト)
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/22120002.html

(ノンテクニカルサマリー)
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/22e110.html

(プロジェクトのページ)
https://www.rieti.go.jp/jp/projects/program_2020/pg-11/005.html


以下は要約です。

本研究では、2015年以降の数年間に数多く設立され、「中国製造2025」以降の中国の産業政策の実施に重要な役割を果たしていると考えられる政府引導基金による、製造業企業に対する出資が、その企業のパフォーマンスに与える影響を実証的に検証する。具体的には、以下の手法で分析を行った。まず、清科集団(zero2IPO)が提供する私募通データベースから2018年までに設立された3,000社余りの政府引導基金のリストを作成、ビューロ・ヴァン・ダイク社が提供するOrbisに収録された製造業企業データとマッチングし、後者の中から政府引導基金の子会社ならびに孫会社を抽出し、さらには基金による出資の時期を特定した。そのうえで、政府引導基金並びにその子会社から出資を受けた企業を処置群、それ以外を対照群とし、出資を受けた年を処置年として、DID-matching 分析を行った。分析の結果、売上高、固定資産、雇用は政府引導基金からの投資によって有意に増加するものの、その他の変数には有意な変化が見られず、負債比率やROEへの効果はマイナスであった。分析を通じて、政府引導基金による出資は事業規模並びに純資産を拡大させたものの、生産性や研究開発の向上といった本来の目的において成果を上げていないことが示唆された。

 中国の政府引導基金によるハイテク企業への投資が産業政策に果たした役割についてこれまでも指摘されてきましたが、その効果の検証を企業データを用いて行った研究はほとんどありません。ご関心のある方はぜひご一読ください。

中国共産党は人民の不在にどう向き合うのか

mainichi.jp

中国で新型コロナウイルスの感染が拡大し外出制限など行動規制が強まる中、各地で住民らによる抗議活動が激しくなっている。3カ月以上も部分的な封鎖が続いた新疆ウイグル自治区ウルムチ市では、25日夜に大規模な抗議行動が発生し、当局が対応に追われた模様だ。抗議が広がった背景に、市内で24日に起きた大規模火災があるとの指摘も出ている。

 市民の抗議の動きは、上海市をはじめ各地で広がっており、微博などのSNSでそれが拡散されるというこれまでにない事態が生じつつあるようです。中央政府がどのような形で事態の収束を図るのか、予断を許しませんが、とりあえずこのような混乱を理解するうえで、今年9月に刊行された現代中国学会の学会誌『現代中国』に寄稿した「中国共産党は人民の不在にどう向き合うのか」という一文の最後に記した一節(文言には若干の変更あり)が役に立つのではないかと考え、シェアしておくことにします。

 本稿では、ウィットフォーゲルによる「水力社会」論を一つの手がかりに、資本主義的な発展の類型論として現在の中国の経済発展をとらえ、そこに内包された「アジア的社会」としての特質、およびそこから生じる諸問題について考察してきた。本稿でも触れたように、改革開放期以降の中国は、社会の目標を功利主義、すなわち最大多数の最大幸福に置き換えることで、これらの諸問題を「解決」することに成功したかのように見える。しかし、実際には「アジア的社会」としての中国の諸問題は後景に退いただけで、解決されたわけではない。本稿でも見てきたように中国が資本主義的な発展を続け、持てる者と持たざる者の間の「人民内部の矛盾」が拡大する中で、その矛盾を解決するとして「権力が人民の敵を名指しする」というアジア的専制から受け継がれた手法がまた用いられることになったからだ。

 そのことを端的に示すのが、2020年以降のコロナ禍、なかんずく2021年の年末以降重症化リスクの低いオミクロン株が主流になってからの中国社会の混乱である。
 2022年に入ってから新型コロナウイルスへの感染者の増加が続いていた上海市では、3月28日から5月末までの間、2か月間にわたって全面的なロックダウンが行われた。ロックダウンの過程で、物流が滞り食糧調達が困難な状況が生じていることや、多くの住民が先の見えない不安にストレスを募らせている模様がSNSを通じて国外にも広く知られるようになった。全面的な都市封鎖に至らなくても、マンション内で1人でも感染者が出れば居住者の外出禁止を新規感染者がゼロになるまで続けるという「動態清零(ダイナミック・ゼロコロナ)」は多くの都市において実施されている。感染力が強く、重症化しにくいオミクロン株に対しても過去の成功体験から脱却できずに、ゼロコロナ政策に固執する習近平政権の姿勢には、海外はもちろん国内においても疑問の声が上がってきている。
 このような明らかに非合理なゼロコロナ政策への固執が維持されるのも、それが専制権力によって示された「天から降ってくる真理」であるからにほかならない。このような「人民」不在の政策をいつまで続けるのか、あるいは続けられるのか。もはやその影響は中国だけにとどまらないだけに、その行方をこれからも注視しなければならない。

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 11月19日付の日本経済新聞の書評欄に、デズモンド・シャム著『私が陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット』の書評を寄稿しました。
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 江沢民胡錦涛政権におけるニューリッチといわれる私営企業家と共産党幹部との結びつきの実態を内部の視点から描いたゴシップ本ですが、それにとどまらず中国の経済発展のゆがんだ本質を鋭く突いた快著です。ぜひご一読を。

www.soshisha.com

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 11月11日付の日本経済新聞の「経済教室」欄に、「バブル頼みの経済運営は限界」という一文を寄稿しました。これまでの中国経済が「低金利の経済」の下での合理的バブルの発生に依存してきたこと、その前提条件が崩れる中で3期目・習政権の経済運営に不安が残ることを指摘しています。この記事は「3期目・習政権の中国」という上中下のシリーズの最後の記事です。上・中の分析も読みごたえがあるものですので、是非合わせてごらんください。

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いただきもの

www.keisoshobo.co.jp

 川島真さんが座長を務める、経団連21世紀政策研究所の1年間のプロジェクトの成果をまとめた論文集です。コロナ禍以降の中国の政治・経済の変遷を復習するにはよい本だと思います。