廣野美和さんを中心とする立命館大学の、一帯一路構想を政治/経済、国内/国際という二つの軸から総合的にとらえようという野心的なプロジェクトの成果です。私も「一帯一路構想は新興国に「債務の罠」をもたらすか」という論文を寄稿しています。これは、「債務の罠」問題を開発経済学における「早すぎる脱工業化」論との関連で実証的にとらえようとする試みです。この問題に関心のある方は図書館にリクエストしてみてください。
第Ⅰ部 一帯一路という課題──グローバル・ガバナンスと日本への示唆
第1章 一帯一路という課題[廣野美和]
はじめに
1.一帯一路とは何か
2.一帯一路の問題点をどう解明するか
3.本書の構成第2章 一帯一路構想と国際秩序──グローバル・ガバナンスと国内ガバナンスへの影響[足立研幾]
はじめに
1.グローバル・ガバナンスとガバナンス
2.一帯一路とグローバルな秩序
3.一帯一路と各国国内政治
おわりに第3章 一帯一路と日本──「互恵的援助競争」の可能性[大門(佐藤)毅]
はじめに
1.開発援助の略史および基本理念
2.日中援助競争のフロンティア──東南アジアを例に
3.ポスト・コロナ復興を巡る日中の攻防と「互恵的援助競争」への道筋
おわりに第Ⅱ部 一帯一路のグローバル展開の特徴と中国アクター
第4章 計画外交で推進されている一帯一路構想[青山瑠妙]
はじめに
1.一帯一路構想における「計画性」と「分権化・分断化」
2.分権から集権へ
3.計画外交で推進される中ロ関係
4.中東欧諸国との関係強化における計画外交
おわりに第5章 一帯一路構想は新興国に「債務の罠」をもたらすか[梶谷 懐]
はじめに
1.資本輸出型の経済発展戦略としての一帯一路構想
2.中国の対外援助と新興国の債務状況
3.新興国の「早すぎる脱工業化」に関する先行研究
4.中国の対外援助は「早すぎる脱工業化」をもたらしているか
おわりに第6章 一帯一路における貿易・投資・援助の三位一体的展開──カンボジアを事例に[中川涼司]
はじめに
1.中国カンボジア関係の政治経済的枠組み
2.中国とカンボジアの経済関係
おわりに第7章 一帯一路構想と対外援助の多様化[楊 鵬超]
はじめに
1.対外援助の定義と先行研究
2.法律の側面からみる対外援助の変化
3.援助内容にみる対外援助の変化
4.資金の側面からみる対外援助の変化
5.地域の側面からみる対外援助の変化
おわりに第8章 大型国有企業集団──「グローバル競争」志向改革への転換[楊 秋麗]
はじめに
1.大型国有企業集団の「官官競争」志向改革から「グローバル競争」志向改革への転換
2.大型国有企業集団の親会社から純粋持株会社への転換
3.国有資本運営の課題
おわりに第9章 民営企業──対外直接投資の特徴と問題[薛 軍・常 君暁]
はじめに
1.中国の民営企業の定義
2.民営企業のOFDIの特徴についての分析
おわりに第10章 華人ネットワーク──アジアの中華総商会と世界華商大会を事例に[守 政毅]
はじめに
1.華人ネットワーク組織・中華総商会が持つ2つの橋渡し機能
2.中華総商会の活動と一帯一路における役割
3.世界華商大会が一帯一路で果たす役割
おわりに第Ⅲ部 一帯一路沿線国における国内問題化
第11章 タ イ──東部経済回廊とタイ華人ビジネス階級[ニミッド・アン 廣野美和 監訳]
はじめに
1.分析枠組み
2.タイ華人ビジネス階級の歴史的状況
3.CPグループの興隆とその政治的影響力
4.一帯一路構想,東部経済回廊,そしてCPグループ
5.タイにおける支配階級エリートと中国に対する昨今の政治的反発
おわりに第12章 インドネシア──ジャカルタ・バンドン高速鉄道と投資をめぐる合意政治[トリシア・ウィジャヤ 廣野美和 監訳]
はじめに
1.一帯一路,社会的紛争理論,およびスケールの政治
2.既存の制度的取り決め──インドネシア中国高速鉄道会社
3.対立と妥協のスケール変更──社会的勢力としての地方政府および資本派閥
4.反対勢力の弱体化および対立の許容範囲の設定
おわりに第13章 ミャンマー──中国・ミャンマー経済回廊と国民民主連盟政権の意図[ルイン・チョウ・ラッ 廣野美和 監訳]
はじめに
1.先行研究の概観
2.概念的枠組み
3.国内政治におけるNLD政権の政策優先事項と挑戦的課題
4.中国要因と中国・ミャンマー経済回廊の役割
おわりに第14章 パキスタン──中国・パキスタン経済回廊と国内政治[フィリポ・ボニ 廣野美和 監訳]
はじめに
1.パキスタンにおける2018年の総選挙とCPEC
2.リーダーシップにおける変化が意味するもの
3.CPECと文民──軍部との関係性
おわりに第15章 ウズベキスタン──脱大国主義のシルクロードとエネルギーおよび輸送インフラ整備戦略[ダダバエフ・ティムール,ドジャリロワ・ニゴラ]
はじめに
1.国家統制経済からインフラ発展指向型国家へ
2.ウズベキスタンのインフラ整備戦略の規範的要素
3.エネルギーおよび輸送インフラの地政学
4.ロシア,中国,韓国,および日本とのインフラと投資に関するロードマップ合意
5.協力体制のロードマップによるエネルギーのインフラ整備
6.輸送インフラ建設
おわりに第16章 中 東──一帯一路構想がもたらす勝者と敗者[ミーナ・タドルス・ミラード・タドルス 廣野美和 監訳]
はじめに
1.一帯一路構想と中東──相互利益
2.勝者と敗者の定義
3.3つの対立的国家関係と一帯一路構想
おわりに終章 中国アクターのグローバル化と一帯一路の国内問題化──日本への示唆[廣野美和]
1.一帯一路構想のグローバル展開の様相
2.一帯一路沿線国における国内問題化
3.グローバル・ガバナンスと国内ガバナンスへの意味合い
4.日本にとって一帯一路とは