梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

中国政府と鉄道部の債務残高

 欧州諸国、米国の債務危機が問題になり、日本でも国債残高の対GDP比の大きさが問題とされて久しい。一方、中国の政府債務はせいぜいGDPの40%程度であり、非常に健全であるというのが中国政府の公式見解であった。
 しかしこのところ、中国も中央や地方政府の「隠れ債務」がかなりの規模に達しているという記事をよく見かけるようになった。日本語で読めるものとしては、このフィナンシャルタイムスの記事を日経が転載したものが手ごろだろうし、目にした人も多いのではないだろうか。

 こういった問題に注目が集まるようになった一つのきっかけは、以前KINBRICKS NOWの記事でも指摘されているように、地方政府の「融資プラットフォーム」を通じた隠れ債務残高が10−14兆元の規模にある、という中央政府(人民銀行)の推計が公表されたことだろうか。2010年のGDPが約39兆元なので、この地方政府の実質的な債務だけでGDPの約3分の1に達する計算になる。

 より詳しいものとしては、ウォルター、ホーヴィ共著『レッド・キャピタリズム』という最近出た英文の書籍の中で、中央政府と地方政府を併せた政府債務の試算がなされている。これに関しては矢吹晋氏の解説を参照されたい。彼らは、2010年における中国政府の事実上の債務はGDPの77%程度に達すると見ているが、個人的にはかなり妥当な線ではないかと思う。
 他に、中国の政府債務額の規模に関する議論としては、ピーターソン国際経済研究所のレポ−トが、米ノースウェスト大教授のVictor Shih氏による、債務残高がGDPの150%(これはちょっと過大だと思うが)という見積りも含め、これまでに行われたいくつかの議論をまとめており参考になる。
 この債務の持続可能性についてはそれを危険視する声もあるようだが、僕自身の見解は、中国経済の現状を考えた場合ドーマー条件が満たされている(名目成長率が政府債務の名目金利を上回っている)ので、当面破綻の可能性は低い、というものである(詳しくはこちらの拙稿参照)。


 さて、そういった債務の持続可能性の問題とは別に、一つ気になるのは、「政府の隠れ債務」が問題とされる際に、7月23日の高速鉄道事故以来やり玉に挙がっている国務院鉄道部が、新路線建設ラッシュの中で膨らませていった独自の債務が無視できない規模に達している、という中国メディアの報道が目立つようになっているからだ。
 特に問題だと思われるのは、2008年の景気刺激策の発動以来鉄道部向けの融資が、特定貸付先への融資が全体の貸付額の15%を超えてはいけない、というモニタリングルールが無視されるなど、国有銀行にとって非常にソフトな貸付となっていた、という点だ。

 上記のウォルター=ホーヴィの著書の推計では、鉄道部の債務全体ではなく、発行している債券の残高4千億元のみが計上されているが、最近の『新世紀』の特集記事では目下の鉄道部の債務残高は1兆7千億元ほどであり、今後更に増えるという見通しが示されている。

 もともと、鉄道部の運営が特別会計によって行われており、十分なコントロールが効かないことは問題とされてきた。本来は政府の財政資金でありながらそれが「別建て」になっており、独自に資金を調達したり債務を膨らましてしまう可能性があるという点では構造は融資プラットフォームと非常によく似ているからだ。実際に鉄道建設に絡む汚職事件で今年2月になり劉志軍(リウ・ジージュン)鉄道相が解任されたばかりだが、このような摘発が行われるのは中央政府が「融資プラットフォーム」の引き締めを本格化させたことと軌を一にしている。その動きが今回の鉄道事故で改めてクローズアップされている、ということだろう。というわけで今後の中国の鉄道政策と中国政府の隠れ債務問題とが密接に絡んだこの問題、引き続いて関連報道を注視していく必要がありそうだ。