先日亡くなられたドラエモン=銅鑼衣紋=岡田靖氏からは、このブログにも過去に二回ほどコメントをいただいたことがある。
僕自身は、岡田靖氏がドラエモン=銅鑼衣紋 であるということを訃報があるまでまったく知らなかったくらいで、彼の発言をそれほど熱心にフォローしていたわけではない。また、正直なところネット上で弔意を表すことには個人的に抵抗があるのだが(というか、リアルの場でも「弔意」というのをどう表してよいのかいまだによくわからないところがある)、ネット上で心に残るやり取りを行った相手が亡くなった場合に、そのやり取りを改めて思い起こすことは、上手くは言えないがとても大事なことのような気がする。それにそのとき話題になった事柄は、どちらもとても重要でアクチュアルな話題だと思うので、以下にそのやり取りをサルベージしておきたい。
特に最初の方のエントリについての「アメリカにインタゲさせて固定相場制に復帰した方が良いんじゃなかろうか?アメリカにはインタゲの範囲内では通貨発行益享受を保証し、その代わり通貨制度の維持管理責任も押しつけるというバーターというのはどうだ?」というコメントは、まさに金融危機後の中国が採用している路線であることを考えると、改めて異議深いと思う。
このようないってみれば「開放小国」路線を採用することが国内の期待インフレ率をコントロールするのにいかに強力かは、過去に紹介した中国とアメリカの実質金利のグラフを見ていただければ明らかだと思う。中国のような「開放」とも「小国」ともほど遠いイメージの国がこういった政策を採用して景気回復に成功している以上、日本も同じような方法で期待インフレ率の反転を図るのは(政治的にはともかく)決して難しいことではないと思うのだがどうだろう。
もちろん銅鑼衣紋氏本人の意見を聞けないのは残念だが、これをきっかけにこういった問題についてもまたボツボツとフォローしていこうかな、と思っているところだ。
銅鑼衣紋 2006/06/12 09:54 kajiさんの説明でようやく伊藤先生などがなぜ通貨統合の推進側にいるのか分かりました。でも、これってドルの減価の負担をアジアの小国にしわ寄せして経済危機を招くことを避けることにはなるかもしれませんが、逆にそうであれば円の調整は大きくなりませんかねぇ。国内では痛みだの負担だの好きなくせに海外にはやたら優しいんではないのだろうか?エゴイスティックに言わせて貰うと、これまでの円の過大評価+アジア通貨のドルリンクで貿易と直接投資で随分と面倒見てきたわけで、この上さらに余計な負担を負う義務はないように思いますけど。
kaikaji 2006/06/12 11:31
>kajiさんの説明でようやく伊藤先生などがなぜ通貨統合の推進側にいるのか分かりました。
銅鑼衣紋さんにそういっていただけるとは、頑張ってまとめた甲斐があるというものです。ありがとうございます。>国内では痛みだの負担だの好きなくせに海外にはやたら優しいんではないのだろうか?
いや、仰るとおりで、「深刻な国際貿易の不均衡」といっても既に日本はその主要な当事者ではないわけで、そこまで米中にお付き合いする必要があるのか、というのが普通の感覚だと思うんですけどねえ。これは全くの推測ですが、このくらいアメリカにとってもおいしい話でないと通貨統合なんていつまでたってもできっこない、という一種の政治的思惑があるのかもしれません。実際共通通貨の話題はアメリカのメディアでも報道されたりしていますが、今のところそれをつぶそうという目立った動きは出てきていないようです。kaikaji 2006/06/12 11:37 あと中国にとっての利害ですが、確かに円その他の通貨がお付き合いしてドルに対して切り上がってくれれば中国だけ集中砲火を浴びることはないので短期的にはハッピーだと思うのですが、国内に大きな格差を抱える中で日本その他と通貨同盟を組むことは、中長期的にはむしろ負担が大きいような気がします。
銅鑼衣紋 2006/06/12 14:26 こんなんだったら、アメリカにインタゲさせ
て固定相場制に復帰した方が良いんじゃなか
ろうか?アメリカにはインタゲの範囲内では
通貨発行益享受を保証し、その代わり通貨制
度の維持管理責任も押しつけるというバー
ターというのはどうだ?ってな話。kaikaji 2006/06/12 15:53 うーんますます「ブレトン・ウッズver.2.0」説に現実味が・・
銅鑼衣紋 2006/06/12 19:09 >ブレトン・ウッズver.2.0
ですね。資本移動が自由な世界なら、国際金融市場なんていっても、要するに地銀が金集めてマネーセンターバンクのある東京に送ると資本収支は地方の赤字で東京は経常収支赤字になるだけの話で、持続不可能とかいわれてもなんだかなぁ。クルッグマンもなんかこの手の話になると時々破滅的予言(と言っても大したことにはならないといってはいるけど)して喜ぶ癖があるような(笑)
双方がインタゲしてりゃ購買力平価は大きく変化しないから、何かの事情でインフレを許容しなきゃならない場合(天災など)には基礎的不均衡の調整にアジャスタブルペッグということで対応ですよね(懐かしすぎるw
銅鑼衣紋 2006/07/18 14:02 恒常所得仮説やバロー命題の出現によって、経常所得の変化が消費関数経由でショックを増幅するメカニズムなど存在しないという意見が強まったのに対し、現時点での純資産額の変化が貸出市場での信用割り当てにより直接に投資を変化させ、乗数過程のようなものが作用するというのがバーナンキ・ガートラー、清滝・ムーア、スティグリッツ・グリーンワルドの主張です。
確かに、ケインズ的フレイバーを残しているという点では萌えちゃう論理構成でして、某掲示板での昔の論争で彼のお方が主張した話です(笑)
問題は、今回の回復過程でも、過去のデフレ脱却過程でも、企業間信用はともかく、銀行貸し出しは遅行していた事実です。素直な解釈なら、純資産増加・貸出増加・景気拡大の順なわけで、事実に対応しないのではという疑問が残る。
kaikaji 2006/07/18 16:18 銅鑼衣紋さん、コメントありがとうございます。上のエントリはなんら統計の裏づけがないまま書いていますので、現実との対応についてご指摘のような問題は当然出てくるかと思います(一応その辺の予防線は張ってあるつもりです)。ただ S&Gの理論構成では銀行による信用供与と企業間の信用との区別はそれほど本質的ではないとされているので、信用量については両者を合わせて考える必要があるのではという気はしています。
バーナンキ・ガートラー論文などとのからみは田中先生のバーナンキ本の第三章で出てくる話ですね。実は某掲示板(「××××で経済を語るスレ」?)での論争はちゃんとフォローしていないのですが、やっぱり全部読まないとダメですかね、・・銅鑼衣紋 2006/07/18 17:56 >銀行貸し出しと企業間信用
おっしゃるとおりでして、私も予防線張ってあるように(笑)、この経路は実は大問題で、取引先銀行の与信態度が企業間信用の需給両側で影響するのは確かみたいですので、ストーリーとしては「不良債権問題の緩和による与信態度の改善が貸出増加以前に中小企業の資金繰りを改善する」という経路はありです。
ただ、この手の定式化の場合、財の需要の変化以前に生産が減るわけで、それがイメージに合わないんです。もっとも、こういうことを言うこと自体が一般均衡的ではないという批判をうけたのが、あの「論争」ではあります(笑)
でもねぇ、供給曲線が左にシフトしていく世界でデフレになるには需要曲線がもっと早く左にシフトしなきゃならんわけで、抵抗感じちゃうわけですな。
>あの論争
僕を含めノイズが大きすぎますから、読む必要はないです。