梶ピエールのブログ

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『四川のうた』

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 ご存知のように神戸市で新型インフルエンザの感染例が出たため、一部のキャンパスが神戸市中央区にあるわが大学も来週いっぱい休校となった。お気楽な大学教師といえども一応計画を立てて教育と研究その他に仕事を振り分けているので、突然予定がぽっかり空いてしまうとかえって何をしたらいいのかわからなくなる。休校といってもどうせ夏休みをつぶして補講することになるんだろうし。この際ブログでも毎日更新しようかな。
 そのうち外出が制限されるようになっても困るので、そのうち観るつもりだった賈樟柯の『四川のうた』を梅田まで観にいってきた。三線建設のときに内陸部に移転されてきた歴史ある国有企業の解体と商業施設への転換、というむちゃくちゃ「おいしい」題材を扱っている上に、俳優人も豪華キャストということでかなり期待していたのだが・・

http://dianying.at.webry.info/200905/article_2.htmlより。

3人の芸達者俳優たちの演技はさすがに上手いんだけど、
何だか演劇学校で模範演技を見せられてるようだったね、と話す。
ドラマになってないから、せっかくの巧みな1人芝居も宝の持ち腐れなのだ。
ジャ・ジャンクーの映画がドラマになっていたのはデヴュー作の『小武』だけだ。
正直、日本が出資するようになったために、あたら才能をという感じが
しているのは私だけだろうか?

 賈樟柯ファンの人には悪いけれども、僕もこのマダム・チャンさんの感想に基本的に同感である。国有企業の解体をテーマにした作品としては、山形国際ドキュメンタリーでグランプリをとった王兵監督の『鉄西区』の映像のほうがずっと刺激的だし、いろいろと考えさせられる。また、複数の人物の「語り」により構成されるドラマという点では彼よりずっと若くてマイナーな応亮監督の『アザーハーフ』のほうがいろいろ工夫があって、飽きさせない。

 『四川のうた』は、変わりゆく中国の現実に目をやろうとすると著名な俳優の一人芝居やわざとらしい音楽が邪魔になるし、かといって観客を「あちら側」に連れて行ってくれるような物語が構築されているわけではない。要は中途半端なのだ。これを「ドキュメンタリーとフィクションの融合」などといって手放しで褒めるのは、かえって中国映画界の実力を見くびった姿勢だと思うのだが、どうだろう?

 マダム・チャンさんが言うように賈樟柯は最初の『一瞬の夢(小武)』が一番よくて、あとはどんどん「人間のドラマ」が描けなく(「描かない」のではなく)なっている、というのが正直な感想だ。
 ・・・そうは言いながら公開されるとついつい観にいってしまうのだけれども。