梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

続・人民元の変動をめぐって―データを見ろ―

津上俊哉氏のブログより。

 チャイナ・ブリーフィングなる雑誌を引用した17日の海外報道を読んで直ちに違和感を覚えた。発言の主とされた発展改革委の張暁強副主任は軽々にこういう発言をするタイプの人ではない。報道を流した広州日報等のウェブサイトでは「ヒラリー国務長官の訪中前を狙ってジャブを繰り出した」的な書きぶりだったが、外為管理の主管でもない役所からそういう意図を込めた発言が出ることも考えにくい。「ナニ、これ?」 と思っていたら、案の定発展改革委から 「報道は全くの捏造」 という否定声明が出た。記者や報道機関が一存で 「でっち上げ」 をするとも思えないので、どこかに 「捏造」 の仕掛け人がいると思うが、真相は不明だ。

こういう記者会見が開かれるのは、またぞろ巷で 「元安」 風説が拡がっているからだろうか?前回12月初めに流れた風説は 「輸出産業支援のための意図的元安政策」 という趣旨だったが、今回は 「金融危機で困った外国企業のリパトリ流出」。中国では過去3ヶ月間貿易黒字が最高レベルの月間400億ドルで溜まっており (輸出急減を上回る輸入急減のせい)、ここから見るかぎり、多少のリパトリがあっても大きな純流出は起こり難い気がするのだが・・・。

 これに関しては、やはりNDFレート(海外オフショア市場における先物レート)の動向に注目するのがよいだろう。記事自体は不覚ながら今まで知らなかったのだが、昨年の10月の段階で関志雄さんがドル/元のNDFと現物レートとのスプレッドの変動を示したグラフを作成している。以下のリンクの記事の下の方のFigure7に注目していただきたい。
http://www.rieti.go.jp/en/china/08102901.html

ちなみに日本語の記事はこちら。ただしデータは8月まで。

 グラフ(Figure7)より、外貨準備が減少した昨年の10月段階ですでに市場では元安予想が形成されていることがわかる。断片的な報道を見る限り現在もやはりNDFレートの方が若干元安に振れているようだ。また、2007年の7月くらいから急激にスプレッドが拡大し、2008年4月ごろにそれが反転し始めていることも興味深い。この時期の外貨準備の増減の動きと照らし合わせても、この時期にホットマネーの流入量が急速に拡大し、その後急速に縮小したことが推測される。
 ここからも、先に指摘したように、中国へのホットマネーの流出入はかつてない激しさを見せており、中国の通貨政策も明らかにその影響を受けざるを得なくなっていることは明らかではないだろうか。しかしこのことは、逆に言えば、以下の関氏のコメントにもある通り(そしてガイトナーが考えているのとはまったく逆に)、中国の政策当局は元高圧力を避けるための為替介入という政策上の縛りからまさに解き放たれようとしているということを示しているのかもしれない。

Second, pressure on the RMB to appreciate is also easing. The RMB had been appreciating since last year, but leveled off after mid-July this year. The offshore RMB forward rate (NDF, one-year forward contract) has fallen sharply, and the forward premium representing the difference between the forward exchange rate and the spot exchange rate has also shrunk to around zero from earlier levels that exceeded 10% in the spring of 2008 (Figure 7). These changes indicate that expectations of an appreciating RMB, which were causing inflows of hot money and higher inflation, are subsiding. Consequently, China now has greater freedom in setting not only monetary policies, but also exchange rate policies that include allowing the RMB to fall.