梶ピエールのブログ

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広東省のシバキあげ主義

先日のエントリ

最後に、これはあまり指摘されていないことだが、10項目の経済対策をみていて気がついたのは、アメリカの景気落ち込みによって最も深刻な打撃を受けているはずの広東省を中心とした外資系の輸出企業に対する特別の配慮が、まったくといっていいほど盛り込まれていない点だ。これは、深センや東莞で今苦しんでいる、委託加工貿易かそれに近い形でのビジネスを行ってきた低付加価値の輸出企業に、苦しけりゃさっさと出て行ってくれ、と言っているに等しいように思える。

 と書いたのだけれど、話はそう単純でもないようだ。以下、『聨合早報』の報道より。

即使饱受金融海啸袭击,广东省委省政府的立场一直相当坚定,继续执行产业提升政策,中小企业存亡、大批农民工失业等考量屈居其次。广东省委书记汪洋上周更高调批评倒闭的中小企业是“落后的生产力,被市场所淘汰”,他认为面对经济困难关键要有信心,政府不能挽救落后生产力。
  可是,中央政府近期的动作却暗示它并不认同广东的强硬立场,温家宝总理上周到珠三角调研时明确要求“加大对中小企业的支持度”。相当明显的,这是中国政权体制下,另一个典型的中央和地方矛盾的例子。

要は、景気の減速があらわになってもなお「低付加価値の輸出企業はさっさと出て行くなり倒産するなりしてくれ」とシバキあげ主義(=清算主義)的な姿勢を崩していないのは、なんとか自分のところをアジアのハイテク企業基地にしたい広東省の幹部であり、温家宝はじめ中央政府はそれに対しむしろ「いつまでも意地を張っていないで、苦しんでいる中小企業に救済の手を差し伸べてはどうか」というサインを送り続けているらしい。
 さらに事態を複雑にしているのは、広東省の政府内部にもかなりの温度差が存在しているという事実だ。

中山大学港澳珠三角研究中心退休教授郑天祥在接受本报访问时说,矛盾不止存在于中央和广东省委省政府之间,省委省政府与属下的地方政府也是有矛盾的。郑天祥解释说,省委省政府要褰走高污染、高能耗的企业,但各市各镇的政府却不愿意这么做,因为它们的收入来自这些企业的税收和土地租金,因此各地政府其实早就私下给予企业很多优惠和好处,确保它们不这么轻易倒闭。

 同じ広東省の中でも、市・県以下のレベルでは、ハイテク基地なんぞどうでもいいから、とにかく地元の輸出企業に手を差し伸べたくてしょうがない、だけど金がない、という状態にあるらしい。つまり広東省の労働集約的な中小の輸出企業については、中央政府とより末端の政府がその「救済」を志向するという点で一致し、省政府のみがシバキあげ主義的な観点から断固救済を突っぱねている、という構図である。
 もちろん、広東省政府の側にも言い分があって、ここで不況が深刻になりそうだからと中小の輸出企業を救済してしまうと、本来倒産すべきゾンビ企業が生き残って生産性を引き下げるためにかえって景気の回復が遅れる上、市以下の政府と不動産業者との癒着が温存されることによって、バブルの再燃につながりかねない・・こう書くと、まるでどこかの国で盛んに論じられたロジックを再び目の当たりにするような既視感に襲われるのだが、気のせいだろうか?

 日本のいわゆる「構造改革路線」をめぐる論争を振り返ればわかるように、この両者の対立は経済観の根本的な違いに起因する非妥協的なものなので、最終的には政治的に決着を図るしかないのかもしれない。なりふり構わぬ景気刺激策に大きく舵を切った中央政府は、それに抵抗する広東省のシバキあげ主義に対して、どのようにオトシマエをつけるつもりだろうか。