梶ピエールのブログ

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禁じられた映画たち

 あまり脈絡もなく、春休みにDVDで観た中国映画を何本か紹介。


 この作品はセックス描写がカットされた上で国内上映が一旦は許可されたのだが、ノーカット版の海賊版が出回ったのはけしからん、というよく分からない理由で結局上映禁止になったもの。当時の事情についてはこちらが詳しい。
 作品自体については、個人的にはマダム・チャンさんの感想に近い。特にレオン・カーフェイの演じる広東なまりの老板をどういうキャラクターとして描きたかったのか、今ひとつはっきりしない。これは想像にしか過ぎないが、もともと監督はフルーツ・チャンの『ドリアン・ドリアン』みたいな、風俗産業に生きる女性を主人公にした作品を描きたかったのではないか。が、それではまず上映許可が下りないので、主人公の仕事はあくまでも「まじめな」マッサージ店という設定にしながら、その中で拝金主義の世の中で金銭と男達の都合によって翻弄される女性の姿を描こうとした。ただ、そういう検閲を配慮した舞台設定にした結果、作品自体もいまひとつ中途半端になってしまった・・という風に思えるのだがどうだろう。結局この映画の見所は一にファン・ビンビン、二にファン・ビンビンといったところだろうか。彼女は確か『墨攻』のときに韓リフ先生id:tanakahidetomiが映画について唯一ほめていた女優さんだが、さすがお目が高い、というべきだろう。



 『苹果』とこの作品(『頤和園』)を一つのジャンルでくくるならば、「目鼻立ちのはっきりした美人女優がほぼスッピンで出てきて狭いところで激しいセックスシーンを演じて、国内上映禁止になった作品」ということになるだろうか(どんなジャンルや)。ただ作品の衝撃度はこちらの方がはるかに上。その分中国国内の上映は話題にもならない(作品は当局に無断で2006年のカンヌに出品された)、どころか監督のロウ・イエはしっかり活動停止処分を食らっている(監督についてはこちらを参照)。

 さてこの作品が話題になったのは北京の学生達と天安門事件との関わりが描かれているからだが、特に政治的な台詞が語られるわけではなく、カメラはただひたすら主人公達が演じる惚れたはれた、別れるの別れないの世界を追いかける。で、そのうちなんとなくキャンパスが騒がしくなってきたと思ったらそのうち銃声が聞こえてきて、気がついたらみんなちりぢりに・・・という展開なのだが、この辺の「個人的なものが政治的なものに巻き込まれていく感じ」の描写はとても自然で、『存在の耐えられない軽さ』(といってもよく覚えていないが)なんかよりも巧みかもしれない。

 いろいろな意味で今年に見ると特にズシリと来る作品だと思うのだけど、日本での上映は無理かなあ・・まあ来年の天安門事件20周年を狙うという手もあるか。いずれにせよ、将来中国映画の歴史を語る上では絶対外せない作品になるだろう。

 ちなみに、主人公の余虹は吉林省延辺出身の朝鮮族という設定である。そのためかちょっと回りから浮いていて、そのクールさの裏に激しい情熱を秘めていて、そこがまた男心をそそる、という描き方はちょっと『キムチを売る女』の設定と似ている。そういうやや類型化されたイメージが存在するのだろうか?

 なお、上記作品のDVDはいずれもyesasiaで購入しました。