梶ピエールのブログ

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小林英夫『日中戦争』講談社現代新書

日中戦争 殲滅戦から消耗戦へ (講談社現代新書)

 さて、前に加藤陽子さんの本を紹介してから随分間が開いてしまったが、また日中戦争がらみで。といってもこちらは一応満州事変からの動きもフォローされているものの、その焦点はどちらかといえば開戦から戦線が次第に泥沼化していく過程に当てられている。加藤さんの本が新書とはいえ3回頭から読み直さないと頭に入らなかったのに対し、こちらは帰りの電車の中の30分でサクッと読めた。この違いは何を意味するのか?
 というわけで感想もサクッと。

・宣戦布告もないままに始められ、そのままずるずると長期化・泥沼化していく日中戦争の本質を、あくまで「殲滅戦」を戦おうとした日本と、初めからこれは「消耗戦」であるという認識を持っていた中国という対比から明らかにしようとする本書の記述はとにかく分かりやすい。特に、汪兆銘政権の位置づけについてここまで分かりやすく説明した啓蒙書は今までなかったのではないだろうか。
・本書ではさらにそのような日中の「戦争観」の違いを「国力」として「ハードパワー」と「ソフトパワー」のどちらを重視するか、という点から説明しようとする。しかしながら、そういった「ハードパワーの日本」と「ソフトパワーの中国」という対比は戦後も脈々とうけつがれ、現在においてもそれによって両国の産業や外交におけるパフォーマンスの違いが十分説明できる、といわれると、あまりに分かりやすすぎてホンマにそれでええんかいな、という気になったのも事実。
・最後の方の章で日本軍による検閲を受けた日本兵士の内地にあてた手紙が多数紹介されているが、これは純粋に参考になった。

 ・・・というわけで、良くも悪くも分かりやすくてすんなり頭に入るというところが本書の最大の「売り」だと思います。