梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

ウォルマートの労働組合

 旧聞に属するが、今年の夏にウォルマートが中国に出店している支店での労働組合設立を認める方針を打ち出し、かなりの注目を集めた。
http://www.nikkei.co.jp/china/news/20060805c2m0501505.html
http://jp.chinabroadcast.cn/151/2006/10/13/1@75915.htm

 この出来事は、一見以前のエントリで指摘したような、中国の労働条件の劣悪さに対する国際的な批判の高まりと、農村からの出稼ぎ労働力の減少という二つの要因できれいに説明できるように思える。
 だが、それに加え、中国共産党政権がここ10年ほどの間、非国有企業における労働組合の組織化を政策課題として積極的に進めてきたこともその背景として指摘しなければならない。その点で、9月23日付の英Economist誌の"A little solidarity"は、この問題に関する優れた紹介記事だった。

 説明するまでもないと思うが、中国では労働組合(工会)は労働者の代表として経営者に対峙するというより、あくまでも党・政府の下部組織としての色彩が強い。たとえば、中国の「工会法」では、全従業員の賃金総会の2%を工会費として企業側が負担しなければならないと規定されているし、また経営者・管理職の参加を認めている組合も多い。これでは、従業員の側にも組合を「自分達の利害の代弁者」としてみる意識がなかなか育たないのも当然で、これが組合組織率の長期的な低落傾向と、非合法の労働争議の多発という二つの事態につながってきた。

 上記のEconomist誌の記事によれば、共産党政権は、こういった労働者の「組合離れ」が一層進むことで、いずれポーランドの「連帯」のような自主管理型の労働者組織が生まれ、政府の批判勢力となることを非常に警戒しており、なんとかして従来型の労働組合の組織率を上げようと努力してきた。その結果、非国有企業における組合の加入者は、この10年間ほどで約4倍にまで増加したと言う。とくに、外資系企業における組合組織率の上昇には目覚しいものがあった。

 なぜ短期間のうちにこれほどまでに外資系企業における組合組織率が上昇したのか、記事では明らかにされていない。しかし、このブログでも何度となく取り上げてきた、中国における「血汗工廠」での低賃金労働を批判する近年の欧米での世論の高まりを中国共産党がうまく政治的に利用して外資系企業への圧力を強め、組合の組織率上昇を通じて経済界への影響力を強化してきた、と言う側面も否定できないのではないかと思う。

 いずれにせよ、中国の政治経済とグローバリズムとの関係を理解するのは、なかなか一筋縄ではいかないようだ。

付記:中国の「工会」の改革をめぐる議論については、以下の論文が参考になると思います。
http://www.jaas.or.jp/pdf/52-1/p1-18.pdf