梶ピエールのブログ

はてなダイアリー「梶ピエールの備忘録。」より移行しました。

「陳さん」外遊に対するアメリカのメディアの反応

さて、何回も書いているように僕はニューヨーク・タイムズをいつも愛読している。米紙では批判的なものも含めて中国関係の記事が圧倒的に充実しているためだ。最近では司教任命をめぐるバチカンと北京政府の角逐について関係者への豊富なインタヴューに基づいた非常に重厚な記事を配信している。こういった現地での徹底した取材に基づく報道は恐らく他紙の追随を許さないものだろう。
 しかし、一つ困ったことがある。台湾関連の記事が非常に少ないのだ。

 台湾といえば陳水扁総統がリビアなどへの「電撃訪問」を含む長期外遊を終えたばかりだが、この件については日本でも産経新聞をはじめかなりの量の報道がなされている。
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/world/taiwan/
 もちろん各華字紙はスタンスはどうあれ一連の外遊を大きく取り上げている。

 ところが、'Chen sui-bian'でNYTのサイトを検索してみるとどうだろうか。。
http://query.nytimes.com/search/query?frow=0&n=10&srcht=s&query=Chen+Shui-bian&srchst=nyt&hdlquery=&bylquery=&daterange=full&mon1=01&day1=01&year1=1981&mon2=05&day2=15&year2=2006&submit.x=14&submit.y=9

 ご覧になればお分かりのように、この中ででロイターやAPなどが配信した記事を除けば、陳総統の外遊に関してはNYTのオリジナルの報道は、アメリカによるトランジットビザ発行拒否についてのJoseph Kahn記者による'U.S. Says No to Overnight Stay for Taiwanese Leader' という記事だけである。この記事はまあ公平な記事だしKahn記者は個人的には恐らく台湾問題についてもよくわかっている人なのだと思うが、これだけじゃなあ。それに彼はあくまで北京支局の人なので台湾のニュースを書くのには限界があるだろう。

 ただし、事情は先日陳総統の寄稿を掲載した保守系紙のウォールストリート・ジャーナルでもほとんど同じようだ(下記のページよりお試しください)。
http://online.wsj.com/public/page/3_0466.html?KEYWORDS=&x=7&y=5

CNNも全くのスルー。 
http://search.cnn.com/pages/search.jsp?query=Chen%20Shui-bian

 また、3月に馬英九国民党主席が訪米した時も一部の華字紙は熱狂状態だったがNYTもWSJも完全に無視した(Ma Ying-jeouで同じように検索して確認)ので、別に民進党政権だから報道しないというわけでもないようだ。

 これに対し、英BBCのサイトは米メディアがスルーした陳総統リビア電撃訪問について突っ込んだ記事を流すなど、アメリカのメディアとははっきり異なった積極的な報道姿勢が目立つ。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/4971320.stm
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/4968352.stm
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/4760471.stm

フィナンシャル・タイムズもかなり積極的にこの件を報道したようだ(記事は読めないけど)。
http://search.ft.com/search/totalSearch_More.html?vsc_query=Chen+Shui-bian&searchCat=0&vsc_publicationGroups=FTFT&offset=0&vsc_appId=totalSearch

 というわけで、日本における台湾関係の報道はその量といい、スタンスの多様性といい、アメリカのメディアに比べてはるかに豊富なものが提供されている、といっていい。というかアメリカの台湾報道全般がイギリスや日本に比べても少なすぎるのだ(特に中台の直接の関係以外の文脈での報道が)。このメディアの報道量の違いは、恐らく一般市民の台湾に関する関心や知識にも反映されているだろう。
 こういうことはマスコミ関係者には常識なのだろうが、少なくとも僕はこちらに来るまで全く知らなかった。というわけで新鮮な驚きから思わずこんなエントリを書いてしまったという次第です。